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原水協通信

毎月発行している日本原水協の機関誌です。国内外の反核平和運動についての情報が満載です。 日本原水協のウェブサイト→ http://www.antiatom.org/

「核兵器の全面禁止を!」

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「核抑止論は核兵器廃絶の最大の障害」-日本原水協代表理事 沢田昭二

沢田昭二日本原水協代表理事の核抑止論を批判するレポートを紹介します。

2010年NPT再検討会議を目前にして
 2010年5月のNPT再検討会議が、核兵器廃絶条約の交渉開始に向かう第一歩を踏み出せるかどうかにかかわって、日本政府への働きかけが重要になっています。鳩山首相が、核兵器廃絶をめざして「国際努力の先頭に立つ」と述べていることが実行できるかどうか、この12月と1月にかけて、重要な発表が相次ぎます。1つは、12月16日に「核不拡散・核軍縮国際委員会(ICNND)」の報告が鳩山首相の口を通じて発表される予定になっていること、もう1つは、「核密約」の公表に対応する方策を、岡田外相に答申する第3者委員会の報告が1月中旬に発表予定になっていることです。

ICNND報告
 12月16日発表のために現在印刷中のICNNDの最終報告は、核兵器の先制不使用政策の採択を当初の2010年から2025年に遅らせ、核兵器の「唯一の目的」を核戦争阻止に限定するという核保有国の宣言を2012年に先送りし、2025年までに核兵器が1000発以下の世界をつくって、その後で核兵器廃絶条約について検討するものになっていると報じられています(共同通信)。
 ICNNDは「現実的に考えた実行可能な提言」をNPTに提出すると言ってきましたが、川口順子共同議長をはじめ、委員会の中心的な人たちが「現実的」というのは、これまで核兵器国や核兵器が必要だという人たちの立場です。ICNNDに意見を反映させるためにつくられた原水協や被爆者団体の代表による「ICNND日本NGO市民ネットワーク」の意見はまったく取り上げられませんでした。ICNNDは、表向き非核3原則は国是であると国民を騙しながら「核密約」を結び、オバマ大統領が核兵器のない世界をめざす演説をすると、「核の傘」を継続して欲しいと要請した自民党中心の旧政権時代の外務官僚の意見を踏まえて報告をまとめたと考えられます。こうしたICNNDの最終報告を鳩山首相が発表すれば、核兵器廃絶をめざして「国際努力の先頭に立つ」ことにはつながらないことになります。

核兵器使用を前提にした核抑止論
 核兵器のない世界を実現する上で、最大の障害になっているのが「核抑止」や「拡大核抑止」という考えです。核抑止はデタレンス(deterrence)すなわち核兵器を使うぞと言って「脅して止めさせる」という意味のdeterを婉曲な日本語に訳したものです。要求を受け入れなければ「核兵器を使うぞ」という脅しで要求を貫くもので、核兵器の使用を前提にしています。自民党政権が「核の傘」=拡大抑止に依存してきたのは、アメリカにいざという時には核兵器を使って下さいと言っていることです。被爆者とともに取組んできた原水爆禁止運動は「どんなことがあっても、誰に対しても、再び核兵器を使ってはならない」ということを基本にしてきました。核抑止論はこれと真っ向から対立するものです。ICNNDは「現実的に考えた実行可能な提言」をNPTに提出すると言っていますが、ICNNDの最終報告は核抑止論から抜け出していません。

核抑止論では核兵器はなくせない
 「核抑止はもはや有効ではない。核兵器廃絶のための本格的な取り組みがアメリカによって開始されるべきだ」と『ウォールストリートジャーナル』に提言を書いた4人の元高官の1人、シュルツ元国務長官は、日本の記者インタビューに「何十万、何百万という人が死ぬとわかっている核兵器を落とせるわけがない。文明国の指導者なら核は使えないのだ。使えなければ抑止力にならない」と答えています。これに対し、米国のシュレージンジャー元国防長官は、今年の7月11日号の同紙のインタビュー記事「なぜわれわれは、核兵器のない世界を望まないのか」の中で、「われわれは潜在的な敵を脅して抑圧するために、毎日核兵器を使い、われわれが防衛を提供している同盟国に保証を与えているからである」と述べ、「これから何十年も強い抑止力が必要である」とオバマ大統領の核兵器のない世界をめざす考えに批判を浴びせています。さらにシュレージンジャー氏は、「アメリカの核の傘の下に、世界中で30カ国以上、ヨーロッパでは新しくNATOに加盟したポーランドやバルチック諸国、アジアでも日本などがあり、特に日本は核態勢見直し議会委員会に『核の傘』の継続を求めてきている」として、拡大抑止の有効性を主張しています。このように、核抑止や拡大抑止(「核の傘」)からは、核兵器が必要であるという立場から抜け出すことはできません。

核密約の公表と非核3原則
 核兵器を積載した米艦船や航空機が日本の基地や港湾、空港に出入りすることを黙認することを日米間で合意していたという「核密約」の存在は公然の秘密でしたが、岡田外相は外務省当局に調査を指示して、その存在が明確になると、6人の専門家からなる第3者委員会を設置して、その他の密約の調査結果を検証し、密約の歴史的評価と公開の在り方もまとめます。座長には元国連軍縮大使で日本代表部副代表の北岡伸一東大教授が就任しました。北岡氏は、「一時寄港は『持ち込ませず』に含まないものとして非核『3原則』は『2.5原則』というべきではないか」と提言したことがあります。「2.5原則」は四捨五入して「3原則」に近いように見えますが、「持ち込み」を認めれば実質「非核2原則」となり、国連安保理での鳩山首相の「非核3原則厳守」発言と真っ向から矛盾します。
 核兵器廃絶を実現するために、核密約を破棄し、核の傘から離脱することがきわめて重要な時期となっています。「核兵器のない世界を」の署名を集めながら、核兵器のない世界を実現する上で最大の障害である核抑止からの離脱を訴えましょう。

核抑止論を打ち破るために被爆の実相を
 広島・長崎の原爆は熱線と衝撃波・爆風で想像を絶する殺戮をもたらし、放射線によって被爆者は苦しみながら死んでいきました。残留放射線の影響を米国政府が隠蔽してきた背景には、核兵器の被害範囲は限定され、影響も続かないので核兵器は使える兵器だという核兵器使用政策があり、核抑止論の背景になっています。原爆症認定集団訴訟の中で、生き残った多くの被爆者が、原爆によってこの64年間苦しみ続けてきたことが明らかになり、残留放射線の影響やその内部被曝の影響を否定してきた米国政府と、これに追従してきた日本政府の考えはまったく誤っていることが明確になりました。ブッシュ政権が「使える核兵器」として開発してきた地下貫通核兵器「バンカーバスター核兵器」の残留放射線の影響は、広島・長崎原爆の何百倍、何千倍も深刻なものになります。使える核兵器があるという核抑止論の根拠は被爆者の命をかけた集団訴訟で打ち砕かれました。被爆の実相を伝え、核抑止論を論破して核兵器はどんなものでも「人道に反する」非道徳的な兵器であり、廃絶しかないことを2010年NPT再検討会議に向けた取り組みの中で訴えましょう。

全文PDFは以下をクリックするとダウンロードできます↓
SAWADA_Syoji_Report.pdf

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