東アジアの非核化と反核平和運動―高草木博

東アジアの非核化と反核平和運動
高草木博
原水爆禁止日本協議会事務局長
 発言の機会に感謝し、最初に、韓国の平和運動の皆さんに連帯のあいさつをおくります。
戦前・戦中の日本による不当な併合と植民地支配、戦後、「冷戦」下での朝鮮半島の分断と独裁支配に対して、皆さんは多くの犠牲を払いながら、みずからのたたかいを通じて韓国社会の民主化を実現させてきました。皆さんが実現した変化は、朝鮮半島、さらには北東アジア全体の平和と非核化の推進にとっても新たな展望を創りだしています。


連帯した運動がアジアの進路を開く時代
 一方、国際的にはいまも、軍事力や核による威嚇でアジアの平和的な発展をゆがめようとする動きも軽視できません。今年2月、米国の対日政策、アジア政策に影響を持つリチャード・アーミテージ、ジョゼフ・ナイという2人の人物が、「日米軍事同盟:2020年にむかってアジアを正す」という驚くほど傲慢なタイトルの提言を発表しました。世界人口の半分、世界経済の3分の1が集中し、経済・金融・技術・政治の比重を高めているアジアは、世界の安定と米国の利益にとって鍵であり、その進路を日米同盟によって方向付けなければならないというのがその主旨です。
 しかし、21世紀の世界はもはや、強国が軍事力にものを言わせて支配し、方向付ける時代ではありません。アジアの将来を決めるのはアジア諸国民の意思であり、運動です。わたしたちの属する北東アジアが、核兵器の廃絶と軍事同盟の克服、平和と協力にむかって前進するよう、この二日間の会議を通じて、相互の理解と連帯を大いに発展させたいと思います。
核兵器拡散を抑える唯一の確実な保証は核兵器全面禁止
 さて、広島・長崎の被爆からまもなく62年を迎えようとしているいま、核兵器をめぐる情勢はひき続き重大です。21世紀の前夜の2000年5月、核保有5カ国政府は、世界諸国民の圧力に押されて、「自国の核兵器の完全廃絶をやり遂げる」ことを「明確な約束」として受け入れました。
 しかし、2001年1月に登場したアメリカのブッシュ政権は、この「約束」を実行することではなく、「冷戦」後の世界にアメリカの一極支配をつくりだすことを使命として、冷戦時代に米国を縛ったさまざまな条約を反故にし、核の圧倒的優位をつくりだすことに力を注いでいます。伝統的なアメリカの「三元核戦力」に手を加え、核戦力と通常戦力の敷居を取り払い、必要なとき、必要な場所でいつでも核兵器を使えるようにすることもそのひとつです。
 この計画は、2001年9・11のテロ事件を契機に同政権が打ち出した、先制攻撃の戦略と結びついて、いっそう危険なものとなっています。2003年3月、世界中の反対を押し切ってブッシュ政権が強行したイラク攻撃は、まさにこの戦略の危険性と無法性、さらにそれが引き起こす悲劇的な結末とをいま、目の当たりに示し続けています。
 同時に、私たちは、大国が他の国の核兵器拡散にどれほど反対してみても、自分の国の核兵器については特別扱いし、みずからが受け入れたはずの軍縮も実行せず、はては「抑止力」と称して他国に核脅迫を加え続けていたのでは、説得力を持たないことは明白です。ブッシュ政権やブレア政権のイラク政策が自分の国でも世界でも孤立し、その核政策が毎年の国連総会、NPT再検討会議やその他の軍備管理・軍縮関係の会議で孤立し続けているのはまさにこのためです。
 私たちもまた、核拡散に反対です。既存の核保有国による脅迫がどのように不当なものであれ、それにたいしてみずからも核で対抗することはそれ自体、人類の生存を人質にした核軍備競争に加わることであり、絶対に正当化されるものではありません。核保有国が、真に核の拡散を「脅威」とするなら、核兵器そのものを禁止すべきです。核保有国も含む世界の圧倒的世論と大多数の政府が核兵器廃絶を求めているいま、私たちも、このアジアで核兵器廃絶を推進する共同の運動をつくり、促進することを呼びかけたいと思います。
憲法9条と非核三原則、非核日本の宣言こそ、最大の国際貢献
 もうひとつ、述べておきたいことは、ブッシュ政権がすすめるアメリカ主導の世界秩序と関連して日本政府がとっている危険な政策についてです。
 周知のように、朝鮮半島の併合とアジア諸国への侵略の歴史を持つ日本に対していま世界の人々が一番強く求めているものは、過去の反省にたって戦争放棄を誓った日本国憲法と被爆の体験から国是と宣言した核兵器を「つくらず、持たず、持ち込まさず」の非核三原則にたって、平和と核兵器廃絶のために努力することです。
 実際には、日本政府がたどってきた道は、戦後史全体を通じてアメリカに追随し、日米同盟に基づいて全土に米軍基地をおかせ、日本を米軍の自由な出撃基地とすることでした。
こうした歩みは、ブッシュ政権の覇権主義的な世界戦略の展開と結びついて、おなじ時期に生まれた小泉政権やその後継内閣である安倍政権が、アメリカの覇権主義に活路を見出し、大西洋におけるイギリスと同じように、アジア太平洋でアメリカの「副官」になることによって、みずからの大国化の願望を果たそうとしているからです。
 彼らはそのために、「グローバルな規模での脅威」に対応するとして、在日米軍の「地球的規模」での出撃を許し、自衛隊がともに行動する方向を追求してきました。昨年10月、北朝鮮が核実験を強行したとき、日本政府のリーダーが取った態度は、日本の核保有論議を容認する一方で、ブッシュ政権とともに改めてアメリカの「核の傘」への依存を確認し、念願の「ミサイル防衛」を促進するとともに、現行憲法の下でもアメリカ本土防衛のために日本をミサイル防衛の基地とする「集団的自衛権」の検討を約束し、同時に、公然と憲法改悪の道を踏み出すというものでした。
 しかし、日本国民の多数がこの道を支持しているわけではありません。核の問題でも、自分は核保有論議を肯定し、あるいは、他国の「核の傘」に依存しながら、北朝鮮に「核放棄」を迫まっても説得力がないことは明白です。憲法をめぐっても、日本の支配層は、「憲法は古くなった」、「おしつけ憲法だ」といったキャンペーンを続けておりこれが一定の影響を広げているのは事実ですが、9条をめぐる問いにはどの世論調査を見ても回答者の圧倒的多数が9条をまもるべき、と答えています。しかも、この傾向はこの3年間、どの世論調査でも強まっているのです。
 また、私たちは、ことし4月、日本の核問題や安全保障の問題で影響を持つ広範な人々とともに「非核日本宣言」の運動を始めましたが、この運動でも、保守・革新の垣根を越えて、とりわけ多くの自治体首長が、大きな賛同を寄せています。
 いま、私たちが取り組んでいる、ここ、北東アジアで反核平和の流れを発展させるための共同の運動は、日本国民に対しても、アメリカの「核の傘」やアメリカとの軍事同盟にではなく、アジアの一員としてアジアの非核化と平和の共同の努力をおこなうこと、とりわけ憲法9条と非核三原則を日本の進路とすることこそ、日本の安全を保障し、国際的に貢献するもっとも確かな道であることをあらためて示すことになるでしょう。
 私はこの機会にあらためて韓国をはじめ、朝鮮人被爆者の皆さんに心から、連帯の意を表したいと思います。朝鮮半島の被爆者は、日本の侵略・支配とアメリカによる原爆投下の二重の被害者であり、日本政府は謝罪し、無条件で援護し、補償する責任を負っています。同時に、この人々は日本の被爆者と同じように核の惨禍の生き証人として、みずからの苦しみを越えて核兵器使用の犯罪性を告発し、核兵器廃絶を呼びかけてきた勇気ある人たちであり、反核平和運動は被爆者を支援し、その声を世界の隅々に届ける責任を負っています。
 私たちは、1955年、最初の原水爆禁止世界大会の瞬間から、被爆者援護と核兵器廃絶の運動とは車の両輪であると位置づけ、この課題に取り組んできました。日韓両国の運動が、被爆者の声に耳を傾け、救援と補償のためにいっそう連携と協力を強めようではありませんか。
今年も、8月6日、9日を中心にヒロシマとナガサキでは、原水爆禁止世界大会が開催されます。最後に私は、その原水爆禁止世界大会とそれに先立つ国民平和大行進に韓国のみなさんが積極的に参加するようお招きし、私の発言といたします。

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