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政府広報のひどい過ち(沢田昭二)

さる8月17日、復興庁、内閣官房、外務省と環境省は、全国紙各紙と福島の県紙に「放射線についての正しい知識を」という政府広報の全面広告を掲載しました。福島県から避難されている人たちを対象にした講演からの抜粋です。

20ミリシーベルトの被曝基準を追認

広告の1面左半分は国際原子力機関(IAEA)保健部長の「国際機関により設定された科学的な基準に基づく行動をとってほしい」という表題です。

放射線関連の仕事に関わらない一般人の年間被曝線量限度は東京電力福島第1原発事故までは法律で1ミリシーベルトでした。原発事故以来その20倍も甘い基準に変え、3年半以上を経た今もそのままです。IAEA保健部長は「原子力事故が発生した地域で住み続ける人の被ばく限度は、基準値である年間20ミリシーベルトです」と述べて日本政府の基準を追認しています。チェルノブイリ原発事故後のウクライナとベラルーシの法律は年間5ミリシーベルト以上の地域は移住強制地域、年間1ミリシーベルト以上5ミリシーベルトの地域は移住権利地域で本人の判断で移住しても国が費用を負担する仕組みになっています。

原爆被爆者に遺伝的影響はなかった

1面右半分の東大医学部放射線科准教授中川恵一氏の講演抜粋はさらに問題です。

まず「全身に2000ミリシーベルトの放射線を浴びた方も多かった広島や長崎でさえ遺伝的影響はなかったと考えられています」と述べ、福島県内の中学の女子生徒が遺伝的影響を心配しているのはメディアの報道に問題があったのではないかとしています。放射線被曝による遺伝的影響は生物実験から明らかになっていることを中学生も知っており、心配は当然です。

韓国で広島の被爆者が多くいる陜川(ハプチョン)の調査では被爆者の子女23%が先天性奇形または遺伝的疾患を持つと報じられています。放射線影響研究所は広島・長崎の原爆被爆者について「疾患発生に及ぼす親の原爆放射線被曝の影響に関して結論を導くためには、今後さらに長期間の追跡調査が必要」としており、中川氏のように遺伝的影響を否定しているわけではありません。被爆者の流産や死産の場合に奇形や遺伝的疾患が多いことが確認されています。

外部被曝と内部被曝の違いと鼻血問題

漫画「美味しんぼ」の中で福島に行ったら鼻血が出たという描写があります。これについて論争が起き、安倍首相は根拠のない風評には全力で対応すると述べていました。中川氏の「鼻血が出るということにも疑問があります」の発言はその対応のひとつでしょう。中川氏は上咽頭がんの放射線治療を30年間してきたが、鼻血が出た方を1人も見たことがないと言います。

放射線治療を専門にしてきた西尾正道北海道がんセンター名誉院長は、鼻血の9割は血管の枝が密集しているキーゼルバッハ部位からの出血で、1ミクロンの大きさでも何億個もの放射性セシウム137の原子核を含む可能性のある放射性微粒子がこの部位近くに付着して集中的にベータ線を浴びせる内部被曝で鼻血を起こす可能性があると説明しています。上咽頭がん治療で鼻のこの部位に放射線を当てることはなく、中川氏は素人を誤魔化していると批判しています。

誤った知識で放射線防護の責任放棄

政府広報の下部には放射線と発がんの相対リスクの表が掲げられていますが、いずれも内部被曝の影響を無視して、被曝線量に対して過小評価の数値になっています。さらに100ミリシーベルト以下はリスクの検出が困難であるとしています。しかし、現在では10ミリシーベルト以下でも固形がんのリスクが増加することを示した多数の論文が発表されています。

放射性降下物による内部被曝の研究を

原爆被爆者の放射線影響の研究において、放射性降下物による被曝影響を無視・軽視してきたことが、国際放射線防護委員会やIAEAによる放射線の外部被曝と内部被曝のメカニズムの違いの無視につながり、放射性微粒子による内部被曝の無理解をさらけ出した政府広報につながりました。

これでは放射線防護はできません。放射線についての「正しい知識を」と言いながら、東電福島原発事故による放射線被曝から国民を守る姿勢に欠けた政府に都合の良い、しかし間違った知識を広めることになります。高額の税金を使った政府の責任は重大です。

(さわだ・しょうじ)

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