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反核ゼミ

1.ミクロの世界への誘い(1)
2.ミクロの世界への誘い(2)
3.ミクロの世界への誘い(3)
4.ミクロの世界への誘い(4)
5.アインシュタインの手紙 
6.英国生まれの原爆原理 
7.原爆1発分の濃縮ウラン 
8.プルトニウム原爆の可能性
9.危険なプルトニウムの製造
10.爆縮式プルトニウム原爆
11.米国の戦略に未来はない
12.原爆を手にした警察官
13.核帝国主義のルーツ
14.原爆と科学者
15.最初の原爆の投下目標

16.核政策のルーツを探る(1)
17.核政策のルーツを探る(2)
18.核政策のルーツを探る(3)
19.核政策のルーツを探る(4)
20.
原爆投下(その1)
21.
原爆投下(その2)
22. 原爆投下(その3)
23.
原爆投下(その4)
24.
原爆投下(その5)
25.原爆投下(その6)
26.原爆被害の隠ぺい(1)
27.原爆被害の隠ぺい(2)
28.原爆被害の隠ぺい(3)

 

核兵器をなくす
『反核ゼミ』10
沢田昭二(名古屋大学名誉教授)
爆縮式となったプルトニウム原爆

自発的核分裂の苦悩

 プルトニウム239を生産する原子炉の運転をはじめると、大量の中性子が原子炉内に充満します。前回話したように、ウラン238の原子核が、中性子1個を吸収すればプルトニウム239がつくられます。さらに、中性子を2個吸収して予期しなかったプルトニウム240もつくられます。このプルトニウム240の原子核は、中性子を衝突させないでも、自分で核分裂して中性子を放出する確率が異常に大きいことがわかりました。このように、自分で核分裂することを「自発的核分裂」と言います。ウラン235やプルトニウム239の原子核も自発的核分裂をしますが、プルトニウム240の数百万分の1という小さな確率でしか起こらないので、問題になりませんでした。盛んに自発的核分裂をするプルトニウム240が含まれていると、「砲身式」と呼ばれる広島原爆の方式では、原爆がうまく作れないことがわかりました。

未熟核爆発
 砲身式原爆では、臨界量よりも少ない2つの未臨界の部分を爆薬で急接近させ、合体して臨界量を十分超えた段階でイニシエーターから中性子を入射させて核分裂の連鎖反応を始めさせるやり方でした。プルトニウム240が含まれていると、自発的核分裂の中性子によって、2つの未臨界部分が合体する直前に、連鎖反応が始まってしまいます。その場合、核分裂による中性子の増殖率は小さく、十分な連鎖反応になりません。そのため「未熟核爆発」と呼ばれる小さな爆発で終わってしまいます。

中性子の増殖率
 プルトニウム239の原子核の核分裂が起こって、中性子が2個〜3個放出されるので、平均して2・5個放出されるとします。核分裂するプルトニウムの塊が臨界量を十分大きく超えておれば、最初の核分裂で放出されたほとんどの中性子はこの塊から逃げ出さないでプルトニウムに吸収されて次の核分裂を引き起こします。その場合、たとえば平均0・5個がプルトニウムの塊から逃げていき、残りの2個の中性子が2個のプルトニウム239の原子核に吸収されるとします。この場合に増殖率は2といいます。増殖率が2で核分裂の連鎖反応が始まった場合を考えると、最初の核分裂が起き、放出された中性子が高速で走って、次の2代目の核分裂を起こすまでの時間は、平均1億分の1秒程度という短い時間です。2代目の2つの原子核の核分裂でつくられた中性子が、再び平均1億分の1秒で次の、すなわち3代目の核分裂を起こし、2×2=4個の中性子がつくられます。こうしてこのステップを81回繰り返すと2×2×2×‥‥×2と増殖率の2を81回かけ合わせることになり、その数は約2兆×1兆個になります。この数は、長崎原爆で約1?`?cのプルトニウム239が核分裂した個数に相当します。1?`?cのプルトニウムが核分裂を起こすと高性能爆薬トリニトロ・トルエン(TNT)2万?dが爆発したときに生じるエネルギーと同じになります。この時の連鎖反応が続いた時間は核分裂が何世代続いたかですから、1億分の1秒の81倍、すなわち約100万分の1秒です。

 ところで、プルトニウム240が含まれていて、自発的核分裂を起こして中性子が放出されると、プルトニウムの2つの未臨界の部分は、まだ十分合体する前ですから、中性子の増殖率は1をわずかに超えた程度です。そうなると、核分裂の連鎖反応が大きく立ち上がる前に、核分裂で生じたエネルギーによって温度と圧力が急上昇して、小さな爆発が起こり、合体しかけたプルトニウムをバラバラにして、臨界量以下にしてしまうので、連鎖反応はストップします。これが「未熟核爆発」です。

爆縮式のアイディア
 「未熟核爆発」の困難が問題になると、すでに1943年4月に実験物理学者ネッダーマイヤーが提案していた「爆縮式」というアイディアが浮上しました。


爆縮式は図のように臨界量よりわずかに下回るプルトニウム239をコアピットと呼ばれる球状の中空の塊にして真ん中におきます。中空の部分には中性子源のイニシエーターをはめ込みます。コアピットのまわりを天然ウランのタンパーで囲み、さらにその外側を火薬で囲みます。周囲の点火栓でいっせいに点火して火薬を爆発させたとき、爆発波が天然ウランのタンパーを同時に、しかも均一に圧縮するように、図の「爆縮レンズ」と呼ばれる構造が工夫されました。図ではタンパーを8個の爆縮レンズが取り囲んでいます。タンパーの中を衝撃波は球面をつくって中心に向かうので、プルトニウム球を押しつぶし、中空も潰され、中性子源を包んだアルミ箔が破れて中性子が飛び出します。このときは、コアピットの中空がなくなり、圧縮されて原子核の間隔が縮まるので、プルトニウムは一気に臨界量を大きく超え、瞬間的に核分裂の連鎖反応が始まります。タンパーは連鎖反応が少しでも世代数を重ねるように、核分裂を始めたプルトニウムを押しとどめておく役割も持ちます。

史上初の核実験
 爆縮レンズがうまく働くかどうかの最終テストは1945年の5月に行われました。複雑な爆縮式の原爆は実際のプルトニウムで試験する必要がありました。1945年7月16日、史上初めての「トリニティ」と名付けられた原爆実験がニューメキシコ州の砂漠で行われ、爆縮式が予想以上に効果的であることを確認しました。


「原水協通信」2003年1月号(第707号)掲載

 

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