ビキニデー

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軍事力の陰の失敗

イ・フランシス・デフン(韓国・参与連帯)

 ジョージ・W・ブッシュ大統領が例の「悪の枢軸」を発表して以来、私たちにはまだ平和への望みの兆しはあるのでしょうか?

 アメリカの強力な同盟国のあいだに広がる戦争反対の意見に、多くの人々の関心が高まっています。ある同盟国は、アメリカ政府の世界観を「絶対主義的で短絡的に過ぎる」、「ばかげている」、「思慮が足りない」といい、あるいは「国内政治に向けたものだ」、「狂っている」、はてはブッシュの配下の外交官を「マフィアのようだ」とまで呼びました。最近、各国にあるアメリカ大使館は本国に対して、世界のほとんどの人々はサダム・フセインではなくブッシュが平和への最大の脅威だと考えている、と報告しなければならないほどです。韓国はもちろん、イギリス、スペイン、ドイツ、イタリアなどアメリカの主要な同盟諸国では、アメリカの対イラク戦争に明確に反対する世論が非常に高まっています。

 世界の軍事費総額の40パーセントを占め、世界の兵器市場の40パーセントの売上と占有率をもち、宇宙空間を一方的に軍事目的で支配し、世界のいかなる場所も偵察・傍受することができて、最強の軍隊をどこにでも送り込むことができ、大量破壊兵器を使用する比類なき力を保有する唯一の軍事超大国として君臨しているにもかかわらず、アメリカはそれでも世界を完全に支配下に置くことが出来ないでいます。もちろん多くの国々の支配層をその配下におさめてはいます。しかし、アメリカは人々の心をつかむことに失敗しているのです。今のアメリカほど世界のいたるところで嫌われ、軽蔑されている帝国が、かつて存在したでしょうか?私たちは今大声で、これは力による支配の失敗であり、軍事力による支配の失敗なのだと叫ぶべきです。

 さまざまな事実を見てみれば、ブッシュ政権の振る舞いやその軍事一辺倒の態度にはなにも目新しいものはありません。しかし、彼の「悪の枢軸」論でより重要なことは、そのどうしようもないほどの短絡思考がなにを意味しているかということです。この政権の「善か悪か」の二者択一論と「生きていようが死んでいようが(捕まえろ)」などという偏執的な力の誇示は、私たちが今日直面しているグローバルな諸問題の複雑さに世界の人々の認識が高まりつつあるという現実と、まったく対極をなしています。国連の機関や討論の場、そしてほとんどの多国間協議において、現在さまざまな問題は複雑に絡み合っており単純な解決策はないのだという理解が広がっています。世界の貧しい地域の貧困は、援助を与え開発を進めればよいという問題ではなく、政治的安定、兵器貿易、企業の関与、環境の悪化、民族間対立などと本質的に関連しているのです。世界中で起こっている南から北への大規模な移民の動きは、彼らの母国地域の貧困と不安定の結果なのです。南の世界で急速に広がっている麻薬栽培や麻薬取引は、北の経済のグローバル化による搾取と消費に密接に関係しています。

 しかし、グローバルな諸問題のこのような複雑さとは対照的に、ブッシュの断固とした演説にでてくるのはすべて「アメリカの権益を守る」ことと、「善か悪か」で「アメリカ的価値」を判断することだけです。ここにはまったく欠落していることがあります。これらの権益や価値を「死んでいようが生きていようが(捕まえる)」といった軍事侵略を通じて追求する、と言いますが、そのアメリカの権益や価値が、他の世界のすべての国々や人々にとってどれほど意味のあるものなのかについては、まったく聞いたことがありません。アメリカが、世界の諸問題とアメリカの権益と価値とのあいだにどんな関連があるかについて語ることができない、ということは、多くのことを意味しています。一方でそれは、いわゆるアメリカの権益と価値はすでに世界の笑いものになっているほどなのです。たとえばいまやほとんどの人々が、中東での戦争は、ブッシュをはじめ石油企業や軍事産業出身者の多い支配層の利益のためだということを知っています。しかしまた別の面でそれは、貧困、麻薬、移民、内戦、環境破壊など、大多数の底辺諸国を覆っているアメリカには存在しない膨大な分野の諸問題を無視することを意味しています。世界の底辺諸国の恐るべき現実は、失敗した植民地に見られるあらゆる兆候と似通っていますが、この唯一の世界的覇権国は、「善か悪か」神話の妄想にとりつかれているだけなのです。

 ブッシュのこの驚くべきレトリックが明らかにしているのは、問題の多い現在の世界においては、強力な覇権国とその軍事力による強制がまかり通っている一方で、これらの問題の対処はほとんど行われていない、という事実です。世界の重大な諸問題に取り組むどころか、アメリカはますます、世界のさまざまなルールブックから脱退することを選ぶようになっています。京都議定書脱退はその一例です。世界のルールブックを破壊することで、アメリカは世界の人々の信頼を失っているのです。

 この短絡思考の脅迫政治が本質的に何を示しているかは、意味深長です。それは、「アメリカ流生活様式」が、最終的には絶対的な軍事的支配であり、軍事力中心のやり方で問題に対処することを意味しているのです。民主政治とは選択肢があってなりたつものです。しかしアメリカがその選択肢を軍事に限ることになったという事実は、この国が道義的な選択肢をもはや持っていないことの反映です。石油依存型で大量消費のライフスタイルを抑制することができない「グローバル化していない大衆」に支持されたアメリカの政治は、いまや他の道を進むことが不可能で、他者を説得するよりも、強制することを選ぶのです。この現代の世界的覇権国にとって、ブッシュの「悪の枢軸」政治は、世界の諸問題に対処することが出来ないという告白のようなものです。私たちに残された道は、よりよい監督者を作り出すことです。私たちの希望の兆候はそこにあります。古い支配者はもう知恵が尽きてしまったのです。やがてかならず、人々と民主主義が勝利するでしょう。


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