原水爆禁止2002年世界大会

国際会議

原水爆禁止日本協議会事務局長 

たかくさき ひろし

 最初に、参加者のみなさん、とりわけ多忙な活動のなかをはるばる2002年世界大会においでいただいた海外代表の皆さんに感謝と歓迎の意を表します。この1年、激動する世界情勢の中で、反核平和運動は多くの国で活動を強め、成果と前進をかちとってきました。私は、この大会が豊かな意見と経験の交流の場となり、実りある大会となることを願っています。

 昨年9月11日のテロとこれに続く報復戦争は、核兵器廃絶をめぐる世界の動きにも重要な影響を与える出来事でした。

 私たち、日本原水協は、あの日、アメリカの平和運動に送った手紙のなかで、テロの犠牲者遺族のみなさんに哀悼の意を表し、「無差別な暴力と殺りくはいかなる理由をもってしても決して正当化されない」と非難するとともに、この事件の解決方向として、「短絡報復的軍事力行使でなく、冷静な事件の真相究明と、理性と法に基づいた問題解決」を求めるアメリカ平和運動の要求を心から支持し、連帯を表明しました。

 実際、もし、ブッシュ大統領が冷静に、あの事件を究明し、法と理性の力によって問題解決する方向を取れば、テロを根絶する上でも、21世紀、平和と安全の国際的な政治方向を開く上でもそれは新たな契機になりうるものでした。

しかし、ブッシュ大統領が追求した方向は逆のものでした。それは、「テロと拡散」に対抗するためには、国際法や国際的合意の制約を受けることなく、あらゆる行動が許されるとするもので、法の支配する世界を「ならず者」の論理が支配する暴力の世界へと一挙に変えるものでした。その独断ぶりは、アフガニスタンへの報復戦争につづいて、政権転覆をめざしたイラクへの新たな軍事攻撃計画を進め、はては「テロリストの細胞は60カ国以上にある」、「彼らには先制攻撃のみが唯一の対応」(6月1日、陸軍士官学校での演説)と主張するまでに至っています。

 核軍縮の分野でもブッシュ政権は、テロ問題を最大限利用し、2000年5月NPT再検討会議で合意された「核兵器完全廃絶を達成」する「明確な約束」を無視し、核実験禁止、非核保有国への核兵器不使用など、核軍縮と核兵器廃絶への流れを覆えそうとしています。今年一月、議会に報告された「核戦略体制見直し」は、膨大な核兵器は相手国に脅威を与え「抑止」するだけだという建前を転換・廃棄し、米国が必要とする場合にはいつでもその都合にあわせて実際に使用できるようにするところに最大のねらいが置かれています。

 しかしみなさん、核の優位を基礎にした時代錯誤の「世界帝国」の構想は、果たして核兵器廃絶と平和を求める世界の流れを逆転できるものでしょうか。

 国際政治の面では、あのテロ事件と同時に開始された、「アメリカにつくかテロリストにつくか」との乱暴なキャンペーンの中で、昨秋、国連総会では、アメリカ政府も賛成して合意された「核兵器廃絶達成の明確な約束」の履行を要求し、「核兵器廃絶にいたる交渉の2002年開始」を提案した決議が110対29の大差で採択されました。ついでCTBT条約発効促進会議でも、この会議を流産させようとしたアメリカの圧力は失敗し、会議のボイコットは米国だけに終わるというブッシュ政権にとって悲惨な結果を生み出しました。

核軍縮分野での孤立と並んで、当の「テロと拡散」防止の分野でも、ブッシュ政権の孤立は著しいものです。昨年12月、アメリカ国内で炭疽菌のテロで国民に被害が生まれているさなか、生物兵器禁止の国際会議でアメリカただ1国の反対でこの会議を流会にしたこと、テロのような国際犯罪そのものを裁くための国際刑事裁判所の設立さえも、わざわざ支持を撤回し、設立を妨害していることも、「テロ」防止の国際的努力そのものでも、その最大の障害がブッシュ政権の一国支配の追求にあることを明らかにしました。

そもそも、ブッシュ政権のいう核兵器や大量殺りく兵器の拡散そのものをみても、一方でこれらの兵器の禁止をとことん妨害してまわりながら、他の国に拡散するのは危険だといい、さらには先制軍事攻撃や核兵器の使用によってでも阻止するという身勝手な論理が、なにほどの説得力もないことは自明のことです。いま、核超大国の一極支配へと、世界の構造をゆがめる動きの中で、こうした危険で身勝手な核政策は、圧倒的多数の国の政府を含め、諸国民の警戒と批判を呼んでいます。

アメリカも同意した2000年NPT会議最終文書は、「核兵器の完全廃絶が核兵器の使用や使用の脅迫を防ぐ唯一絶対の保証であることを再確認する」と述べています。新たな核兵器使用の危険が高まるもとで、この実現は、ますます緊急の課題となっています。

私は、この2002年世界大会が、「テロと拡散」を理由とした武力攻撃、とりわけその中での核兵器使用の企てに断固として反対し、それを許さない草の根からの運動を広げるとともに、国連とすべての加盟国に対して、核兵器全面禁止の合意をさらに広げ、強固なものとし、直ちに実行に移すよう呼びかけることを提案したいと思います。

核兵器使用の企てが公然といわれるもとで、私はヒロシマ・ナガサキとは何であったのかを、改めて世界に知らせることの重要性を強調したいと考えます。「地球上のいずれの地にも、ヒロシマ・ナガサキをくりかえしてはならない」と、多くの被爆者がさまざまな苦難とたたかいながらも、人類の生存のために自らの体験を語りつづけ、核戦争阻止、核兵器廃絶の世論を世界に広げるうえで貢献しました。被爆の実相をひろげることを、高齢化した被爆者を、これまでにもましてしっかりと支え、核兵器のない世界をねがう私たちの共通の課題として、各国で大いに進めることを提案して、私の発言といたします。