原水爆禁止2001年世界大会
国際会議

平和のための科学/カナダ核廃絶ネットワーク
フィリス・クレイトン


カナダと核兵器


  広島と長崎での世界大会に参加し深く感動しています。この二つの都市は、私が15才だったとき、核兵器のもたらす壊滅的な恐怖を世界に初めて思い知らせた場所です。私の国は、矛盾で板ばさみ状態にあります。1994年4月カナダ政府は、国民、とくに平和組織の要求におされ、議会の委員会がだした勧告に応えて、核兵器の廃絶こそが将来の安全を保障する唯一の持続可能な戦略であることを正式に認めました。一方、カナダは依然、核兵器に固執するNATOの一員なのです。

  私は、核兵器廃絶のためのカナダネットワーク(CNANW)の道義上の熱い思いと決意を伝えに来ました。このネットワークは、国際司法裁判所がだした核軍縮を義務づける勧告的意見を受けて、1996年につくられた非政府組織(NGO)です。私たちの組織の要求を受け、カナダのロイド・アクスワージー外相は、議会の委員会に、核兵器政策についての公聴会を開くよう要請しました。この公聴会に、平和団体はNATO核政策の見直しを要求しました。それが、NATOは戦略概念を見直すさい核兵器に関する部分も議論することをカナダは要求すべきだとの委員会勧告につながりました。その結果、1999年4月ワシントンで開かれたNATO首脳会議は、カナダの提案により、NATOの安全保障と軍備管理の選択肢が検討されることになりました。これは、アクスワージー外相は、NATOが核政策見直しの際に含まれることになると確認していたプロセスです。

  カナダは敵意に満ちた批判と干渉を受けました。アメリカは、議会での核兵器政策にかんする公聴会を開くことにさえ反対し、NATO指導部は、カナダを核について「口やかましい」と中傷しました。私たちのネットワークと加盟組織は、カナダが屈しないよう圧力をかけ続けました。そして、首相、外務大臣、国防大臣に手紙を送るキャンペーンを始めました。NATOの完全かつ透明な再検討を確実に実施させること、また国連に核兵器廃絶の早期交渉開始の努力をするよう求めた新アジェンダ連合の国連決議に賛成するように迫ったのです。9月NATO加盟国・国防相会議が開かれたとき、私たちは記者会見を開き、国民がNATOの政策見直しを求めていることを再度訴えました。またネットワークとして、カナダ政府にたいし長い声明文を出し、NATOが見直しについて後退していることを指摘し、カナダに新アジェンダ連合を支持し、NATOの政策を変えるよう努力するよう要請しました。1999年、新アジェンダ連合の決議が採決されたとき、カナダの提唱により、核兵器をもたないNATO加盟国の多くが、反対し続ける側から、カナダとともに棄権する側に回りました。

  私たちネットワークは、Eメールや年2回の会議で、行動計画を立てています。また、新しい知識を得るために専門家との会合をもったり、政府との協議に参加します。2000年2月には、間近に迫ったNPT再検討会議に力を集中してました。そして、会議に参加するカナダ政府代表団に、市民代表としてプロジェクト・プラウシェアーズのアーニー・レーガーを加えることに成功しました。3月にはトロント市で、カナダのパグウォッシュ・グループと、私も理事を務める平和のための科学の共催でセミナーを開き、学者や平和活動家の主張を訴えました。首相にも送られたこのセミナーの報告書において私たちは、核兵器への依存を、究極の「狂気の行進」として告発し、カナダが、NPT再検討会議やNATOのなかで、道義的な指導者となるよう求めました。また、カナダが、アメリカのミサイル防衛計画(私たちは、この計画は意義ある軍備管理の可能性をなくしてしまうと考えています)への参加を拒否し、その代わり、人間の安全保障という方法と平和の文化を強めるよう求めました。同じ3月、カナダの各都市にあるの私たちネットワークの加盟団体は、カナダの国連軍縮大使、クリス・ウエストダルの講演ツアーに大いに活気づけられました。大使は、核兵器を、殺人と地球のレイプと人類消滅の道具であると痛烈に非難し、その破壊力がいかに巨大であるかを説明し、核抑止力論を恥としてこきおろしました。これが大きな励ましになりました。大使は、カナダで世論を喚起し、問題の重要性にたいする人々の認識を高め、それによって核兵器廃絶に必要な力と政治的意志を築こうという訴えましたが、私たちはこれに応える決意です。

  1999年5月のNPT再検討会議で、核保有国が核兵器廃絶の達成を明確に約束したことに私たちは勇気づけられました。それよりも嬉しかったのは、カナダが2000年秋、(フランスを除く)NATO加盟国とともに、国連で新アジェンダ連合の決議の支持に回ったことでした。この決議には、NPT会議での約束とそれに付随する13の行動計画が含まれており、これらの項目はいまや国連の公約としての効力をもつようになりました。この決議は、核兵器のない世界を支えていくためには、交渉により締結される法的に拘束力をもつ文書、つまり核兵器条約が必要であるとしています。カナダはこのような趣旨の国連決議をこれまで一度も支持したことがありませんでした。今後、カナダは新アジェンダ連合と、さらに緊密に協力していく必要があります。とくに、12月におこなわれたNATOの戦略再検討会議において、もっぱら1999年の戦略的概念が再度強調され、核兵器は「重要」であると再度位置付けられ、これを将来も維持していくという意図が明確にされたにしただけに、なおさらです。しかし、NATOは確かに、NPT会議で核兵器廃絶の約束と13の行動を再確認し、核兵器や軍縮の問題で、NGO、学者、国民との協力を広げていくことを約束したのです。

  昨年の1年間は、アメリカの全土ミサイル防衛(NMD)計画に反対し、カナダがこの構想への参加を拒否するよう政府に迫ることに力を注ぎました。2000年10月、平和のための科学は、アメリカから専門家のカール・グロスマン氏を招いて、スター・ウォーズに関するセミナーを開きました。私たちは、平和活動家として、全国放送のテレビ討論に参加し、新聞や雑誌の記事を書き、議会の委員会がおこなった国防政策の再検討に報告書を出しました。

  私たちは、カナダはミサイルの脅威にたいする現実的な対応として、核兵器廃絶に全力をあげるべきだと訴え、NMDははやくも廃絶の努力を阻みつつあり、やがてこれを破壊することになると指摘しました。さらに、前進する道として、カナダが、もう一度、国際法順守のために努力する道を選ぶよう要請しました。NMDはABM制限条約に違反すること、軍拡競争を激化させ、それによって、カナダがこれまで支持してきた、核拡散防止、軍備管理、軍縮に関する合意を脅かすようになることを強調しました。NMDは、アメリカの第一撃攻撃能力に欠けていた鎖の最後の一環を加えるものであり、アメリカによる宇宙支配の第一歩になると主張した団体もいました。NMD計画は、アメリカの宇宙司令部が「ビジョン2020」において(その後の「長期計画」とともに)打ち出したものですが、ここでは、ミサイル計画が、宇宙からの攻撃、また宇宙空間における戦力の構築に向けた最初の一歩に他ならないことが明らかにされています。その目的は、宇宙を軍事化することで世界支配体制を達成し、全世界でアメリカの軍事的、商業的利益と投資を守ることにあります。

  私たちは、政府に手紙やハガキを送る運動や、署名を集めて議会に提出するためにがんばっています。教会にたいして、正式にNMDに反対する立場を表明するように働きかけることも、もうひとつの戦略です。人々を啓発する集会を組織したり、政府高官や議員と対話集会を開いたりもしています。また、ミサイル防衛についてホームページをふたつ開設しました。ひとつは若い人向け、もうひとつはスター・ウォーズ反対ネットワーク用です。NMDを裏で推進する勢力は権益を占有するアメリカの企業や軍部であり、彼らによりカナダの軍部や企業もこの計画に引き込まれるかもしれません。アメリカは、NMD計画が信用に値すると思わせるため、カナダの支持を得ようとやっきになっているからです。平和のための科学は、最近おこなわれたケベック・サミットにむけ、目立つパンフレットを作成し、集まった人たちに配りました。

  平和のための科学は、カナダが、国際的な衛星監視システム開発を促進・援助することで、平和に真に貢献できると考えています。このシステムが開発されれば、すべての核兵器攻撃システムの発射準備、またミサイル発射、航空機の動きなどの情報を早期警報としてすべての国に送ることができます。私たちは、アメリカ宇宙司令部の危険な構想に正式に反対を表明するよう政府に求めています。平和のための科学の理事5名は、カナダ政府におもむき、ミサイル防衛と宇宙の軍事化に関して私たちがもつ情報や要求を、国防大臣に提出しました。CNAWNは、2月、NMDに関する声明を発表しました。また現在、バンクーバーにあるブリティッシュ・コロンビア大学付属のリュー国際問題研究センター所長のロイド・アクスワージー元外相は、サイモンズ財団をつうじて、協議会を行い、カナダの指導的な役割についての報告書を出しています。

  世界存続のための医師の会からは、核の冬について新しい調査をする必要があるという問題が提起されています。この調査は、核爆発から生じるほこりと煙、またそれに続いて起こる火災の破壊的な被害を予測した1980年代の研究に続くものです。私たちは、市町村が核廃絶支持決議をあげるようにも働きかけています。トロント市の市長には、広島市と長崎市の市長が出した廃絶のよびかけに署名してもらいました。

  NATOについては引き続き警戒が必要です。2001年3月、パグウォッシュと平和のための科学が共催したセミナーでは、ローチ上院議員とアーニー・レーガーの論文に基づいて、カナダ、NATO、核兵器に焦点をあてました。ローチ議員とレーガー氏は、カナダは核政策の見直しを求めたのだから、NATOが廃絶を約束している一方で核兵器に固執している矛盾にたいする特別の責任を負っていると主張しています。もはやカナダは、NATOと軍縮のあいだのバランスをとることが義務であると考えるべきではない、カナダは、核軍縮の約束を果たすことが義務であると考えるべきであり、新アジェンダ連合と協力して、廃絶の明確な約束を実行するべきだというのです。そして、カナダは核兵器廃絶でリーダーシップを発揮し、市民社会のリーダーたちと政府が、同じような考え方の政府やリーダーたちと新しい連合を結成する可能性を追求し、その連合によって、核保有国に、保有する核兵器をなくすという約束の実行にむけて、積極的に行動するよう奨励することを提案しています。このほか、セミナーでは、政府関係者がNATOとカナダ政府の意見を紹介しました。また、トロントで政治学を教えるロシア人教授は、ロシアとヨーロッパの視点を説明しました。地球規模での核軍縮をすすめる上での問題点や提案を含めたこのセミナーの議事録は、外務大臣と国防大臣に送られました。

  この8月4日、世界存続のための医師の会は、3年連続で、「グローブ・アンド・メール」というトロント地域の主要新聞の一面に意見広告を出すことになっています。この意見広告には、広告掲載のため募金した1,000人のカナダ人の名前ものっています。広告のメッセージは「1945年8月6日のヒロシマを思い出そう」、「ミサイル防衛にノーと言おう」、「核戦争にたいする地球の最大の防衛は核兵器廃絶だ」というものです。私たち、知識と良識ある人たちが決意すれば、世界から核の惨禍をなくすことができます。そして、人類と地球を救うために、私たちは必ずそうしなけばなりません。


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