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原水協通信

毎月発行している日本原水協の機関誌です。国内外の反核平和運動についての情報が満載です。 日本原水協のウェブサイト→ http://www.antiatom.org/

「核兵器の全面禁止を!」

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木村氏の逝去を悼む(長崎県原水協・片山明吉)

長崎県原水協・片山明吉さん

9月17日、前福岡県原水協事務局長の木村勇氏が逝去されました。今年の原水爆禁止世界大会−長崎で会えるものと思い私も会場に向かいましたがお会いできませんでした。まさか病気療養中とは予想もしていなかったので、突然の訃報に驚愕しています。重責を退任され、これから自分自身の人生を、そして一心同体で活動を支えてこられた奥様との時間を過ごしながら、原水爆禁止運動の行方を見定めたかったに違いありません。

私は1994年6月、何もわからないまま被爆地長崎の原水協事務局長に就任しました。木村さんは私より先に、そして私より後まで福岡県の事務局長を務め、その傍ら九州ブロックの全国担当常任理事として九州の運動をリードしてこられました。私も被爆地選出の全国担当として木村さんと共に活動してきましたが、私が大過なく任務を遂行することができたのも、地元の諸先輩とともに木村さんの影響が大きかったと感謝しています。

木村さんは私と同年代で、かつ1960年の安保・三池闘争の最中に青年運動に加わり活動をスタート、その後半は原水爆禁止運動にともに参加することになったのも何かの縁だったのかもしれません。

原水協運動では数々の思い出がありますが、中でも九州ブロック原水協学校を各県持ち回りで沖縄を含むすべての県で開催してきたこと、重要課題推進にあたっては九州各県原水協事務局長会議を開くなどして各県の運動強化と交流に役立てるなどがあります。このように木村さんは福岡県が九州最大の県として、世界大会−長崎がメインの時も広島も長崎も責任を果たす立場で奮闘されてきたし、九州の運動発展にも心を砕いてこられました。もちろん署名をはじめ各種のとりくみでも福岡県が先陣を切り私たちを励ましてきました。

木村さんは私が病に倒れた一昨年春、入院先の病院まで奥様とともに見舞いに駆けつけてくれました。検査室を出てエレベーターまでの数メートルで顔を見合わせただけで木村さんは帰られました。私の病状を察して言葉をかわすことを遠慮されたのだと思います。そしてその後、九州各県に連絡され、各県からのお見舞いを送っていただきました。すでに第一線を退いた私に、これほどの思いやりをいただき、木村さんの人柄をうかがい知ることができました。私はこうした原水協活動を通じて育まれた友情が今を生きる力となっていることを実感しています。

90年代後半、「ヒロシマ・ナガサキからのアピール」署名の国民過半数達成を目指して各県が県民過半数達成を競い合った時代が懐かしく思い出されます。今日本原水協は事務局のメンバーも若返り、各県の当時のリーダーたちの多くが後継者と交代する世代交代の時期に入っています。個人の人士に限りがあっても、その時々に果たした役割は新しい後継者に受け継がれ新たな発展が始まります。「核兵器廃絶」の国際的な流れは誰も止めることができないでしょう。安保法制化反対運動の新しい発展は、私たちに限りない希望を与えてくれています。私たちの過去の活動が、喜びと懐かしい思い出に変わるひとときに思いを巡らしながら、木村さんへの感謝の言葉とします。

(長崎県原水協・片山明吉)

【日本原水協】被爆70年を核兵器廃絶の転機に『原水爆禁止2015年世界大会の記録』発刊

原水爆禁止2015年世界大会の記録

被爆70年を迎えた8月、2日から9日まで広島と長崎で開催された原水爆禁止2015年世界大会には海外から21か147人をはじめ、12,000人の代表が参加し、核兵器のない世界を実現する決意を新たにしました。

内外の参加者に感銘を与えたのは被爆者の方々がみずからの被爆体験を語り、核兵器廃絶の実現と戦争反対を訴える姿でした。

今年のノーベル平和賞受賞者に推薦されているカナダ在住の広島被爆者、セツコ・サーローさんと長崎被爆者、谷口稜曄(すみてる)さんのスピーチをはじめ、被爆70年スペシャル企画「被爆地広島・長崎から世界へ」のコーナーは読み応え抜群です。

また、インドネシアをはじめとする政府代表や主要反核平和団体代表の発言はもちろん、「戦争法案」に反対する全国の運動の盛り上がりの中でとりくまれてきた多彩な草の根運動の発言からは今後の運動の方向性をつかむことができます。

世界大会の報告会や学習会など被爆70年を核兵器廃絶の転機にするために、ぜひご活用ください。

原水爆禁止2015年世界大会の記録 B5版222ページ、頒価1500円(送料込)

ご注文は都道府県原水協または日本原水協お問い合わせフォームまで。

【高知】30年の活動で製作したDVD、本、冊子などの資料購入とカンパで被災船員救済にご協力ください。

第二幸成丸船員

3月16日の高知県主催の「ビキニ健康相談会」は、高知県・室戸市職員、被災者と遺族、高知生協病院、室戸の支援の会準備会メンバー、核被災支援センター、第五福竜丸平和協会学芸員、全日本民医連広報部などから約40人と15人ほどの報道関係者が、科学的で説得力ある先生方の報告に注目し、感銘をうけていました。高知県は、全国的にも大きな1歩であったと思います。NHKが朝のニュースで全国報道し、新聞各社も取り上げて報道しました。県健康対策課長(医師)も引き続き西部での開催を意思表示されています。2回目はさらに参加者を広げ、地元の自治体の支援を呼びかける予定です。

ビキニ調査から30年で、政府の公文書が開示され、その分析が期待され、追跡調査も全国的に展開され始めていますが、昨年全国的な行動が重なり、活動を支える財政が底をつき、動きが止まっています。幸い30年の活動で製作したDVD、本、冊子などがありますので、その普及とカンパに可能な範囲でぜひご協力ください。領収書が必要な方は、事前に振込みいただければ、同封してお送りします(送料はすべて¥500)。

▲第二幸成丸船員

 

『「ビキニ事件」の立証-60年ぶりに開示された政府公文書を解くー』 ¥500

【目次 1、「ビキニ事件」の立証と「原発被災」のこれから 2、被災船リスト (開示公文書より) 3、「外務省」公文書まとめ(厚労省) 4、「厚労 省」交渉、ヒアリング記録 5、高知県「被災船員の会」関連と行政の対応年表 資料、被災船員健康記録、高知県主催「ビキニ健康相談会」要項など】

太平洋核被災支援センター

DVD「ビキニの海は忘れない」 ¥1500

―ビキニ事件を追跡する高校生たち―

森康行監督、ナレーション吉永小百合、キネマ旬報記録映画ベストテン、国際映画祭参加 62分

DVD「渡り川」 ¥1500

―強制連行を追跡し、国境を越えた交流を進める高校生たち―

森康行監督、キネマ旬報記録映画ベストテン1位、国際映画祭参加 90分

冊子「震災・核被災に向きあう青年の集い」 ¥500

ヒロシマ・ビキニ・セミパラティンスクそしてフクシマを結ぶ P68

冊子『東北大震災に学ぶ旅』 ¥500

―津波・原発被災にむきあって―

高校生たちの宮城・福島調査記録 P39

冊子「ビキニ・死の灰世界各地へ」 ¥500

―米「キャッスル作戦」放射性降下物記録、第五海福丸乗組員の日記」 P45

本「もうひとつのビキニ事件」 特別価格 ¥1500

―延1000隻の被災船を追う―ビキニ被災50周年 被災船員・沖縄・韓国調査 平和文化 P157

本「核の海の証言」 ¥1800

―ビキニ事件は終わらない―

ビキニ被災60周年 日米両政府の政治決着 米国の公文書解明 ビキニとフクシマ […]

『【ビキニ水爆被災61年】2015年3・1ビキニデー集会の記録』のご案内

2015年3・1ビキニデーの記録表紙

今年のビキニデー集会は、被爆70年を核兵器のない世界への転換点にするために最初の全国的集会として開かれました。記録集には、核保有9か国を国際司法裁判所に提訴しているマーシャル諸島共和国から、ロンゲラップ島民の代表として参加したピーター・アンジャインさんのスピーチや「ビキニ被災事件と(焼津)市民のたたかい」と題するミニ座談会、NPT・ニューヨーク行動に参加する代表のリレートークなどを収録しています。さらに、元第五福竜丸乗組員の大石又七さんの「見えない放射能に思う」という訴えや、高知・太平洋核被災支援センター事務局長の山下正寿さんの「『ビキニ被災』の立証―60年ぶりの政府公文書開示―」も全文掲載するなど充実した内容となっています。

また、日本原水協全国集会・国際交流会議でのジョゼフ・ガーソンさん、イ・ミヒョンさん、ピーター・アンジャインさん、土田弥生さんの発言と、日本原水協全国集会・全体集会での安井正和事務局長の基調報告の全文を掲載しています。

日本政府に被爆国としての役割を果たさせるため、またNPT・ニューヨーク行動から原水爆禁止国民平和大行進、8月の被爆70年原水爆禁止世界大会の成功へ向けて草の根で署名を広げ、世論をつくるためにも是非ご活用ください。

●4月3日発行 B5版 92ページ ●頒価:700円(送料実費) ●発行:原水爆禁止世界大会実行委員会/3・1ビキニデー静岡県実行委員会

お申し込みは、申込書にご記入の上、FAX:03-5842-6033まで。

【問合せ】〒113-8464 東京都文京区湯島2-4-4 平和と労働センター6階

原水爆禁止世界大会実行委員会 電話:03-5842-6035/FAX:03-5842-6033

日本政府がオーストリアの働きかけを拒否!? 世論で包囲しよう! 日本政府に核兵器全面禁止の決断と行動を求め 3月議会に自治体意見書要請を

『国際情報資料40』

報道によれば、オーストリア政府が4月のNPT再検討会議に向けて、核兵器禁止、廃絶の効果的措置を求めた文書(「オーストリアの誓い」)への賛同を全国連加盟国に求めたことに対して、日本政府は見送る方針を固めました。背景には、米国政府が「核の傘」への影響を理由に日本を含む同盟国に不賛同するよう働き掛けていたことが明らかになりました。

「世界で唯一の被爆国の日本が核兵器禁止の呼び掛けに賛同しない姿勢は許しがたい」「『核の傘』という核兵器に頼りながら核兵器廃絶を叫ぶ二枚舌外交をやめるべき」(3月14日付、「琉球新報」社説)との厳しい批判の声が上がっています。

被爆70年の今年、日本政府が被爆国としての役割を果たそうとするならば、一方で「核兵器廃絶」を口にしながら、実際には核兵器全面禁止に背を向ける矛盾した態度を直ちに改めるべきです。

日本政府に次回NPT再検討会議で核兵器全面禁止を提唱する流れの先頭に立たせるために、「核兵器全面禁止のアピール」署名を大きくひろげ、「日本政府の核兵器全面禁止の決断と行動を求める」自治体意見書を3月議会に緊急に要請しましょう。

自治体意見書・例文(2015年2月)

2015自治体要請文案

自治体意見書は3月17日現在、24都道府県で128自治体です。日本原水協は4月はじめに、日本政府への申入れをおこないます。

「オーストリアの誓い」(『国際情報資料No.40』参照) 核兵器の人道的影響に関する第3回国際会議

オーストリアはNPTの全締約国に対し、第6条の下で存在する義務を緊急に完全に履行するという自らの決意を新たにするよう呼びかけ、そのために、核兵器の禁止と廃絶に向けて法的なギャップを埋めるために効果的な措置を特定し追求するよう呼びかける。オーストリアはこの目標を達成するために全ての利害関係者と協力することを誓う。(一部抜粋)

※国際情報資料№40を活用しましょう。頒価800円(送料実費)

お申込みは、Tel.03-5842-6031/Fax.03-5842-6033まで。

広島・長崎原爆の非人道性の物理学的根源 沢田昭二

沢田昭二1,2

広島・長崎原爆の非人道性の物理学的根源 沢田昭二

名古屋大学名誉教授・物理学・被爆者

原水爆禁止日本協議会代表理事

核兵器禁止条約の早期交渉開始に向けて核兵器の非人道性に焦点を当て広島と長崎の原爆投下の真相を知る必要があります。この報告において原爆使用の非人道性の物理学的根源を説明したいと思います。

 

1.初期放射線

広島・長崎の原爆は爆発した100万分の1秒内に、核分裂の連鎖反応によって大量のガンマ線と中性子線を放出しました。このガンマ線と中性子線のほとんどは原爆の爆弾容器の壁に吸収されました。容器の壁に吸収されないで通り抜けたガンマ線と中性子線は大気中の原子核による散乱、吸収、再放出を繰り返しながら地上に達し、人々に瞬間的な外部被曝をもたらしました。

原爆が爆発した1分以内に放出された放射線を「初期放射線」と呼びます。爆心地から1 km以内で被爆した人は、この初期放射線によって4 シーベルト(Sv)を超える外部被曝をしました。4 Svの被曝は被曝した半数の人が60日以内に死亡するので「半致死線量」あるいは「50%致死線量LD50」と呼ばれます。爆心地から1 kmで被爆した人は、初期放射線被曝に加え、後に説明する残留放射線でも被曝して、さまざまな急性放射線症状に苦しみもだえながら死んでいきました。

原爆が投下された8月6日、広島第一中学校2年生の広島市外から汽車で通学していた生徒が動員されていた兵器工場は金属材料不足のため休業になり、広島市内から通学していた生徒は爆心地から西南西約14 kmの地御前の兵器工場に動員されていました。そのため、私のように病気などで休んで市内にいた2年生の内3人が原爆で死亡しました。学徒動員されなかった1年生(年齢12〜13歳の少年)約320人の内150人余が広島第一中学校南側の爆心地から約1,000 m離れた屋外で建物疎開の跡片付けの作業中に被爆したため火傷と遮蔽効果なしの初期放射線被曝をしました。彼らは水を求めて学校のプールに逃れてきましたが、翌年4月、2年生になるまでに、火傷と放射線による急性症状に苦しみながら全員死亡しました。1年生の残り150人余は爆心地から約870 mの1階建て木造校舎で予習をしていて被爆し、倒壊した校舎から脱出できたのは80人余でした。脱出できた者も全員が火傷は免れたものの放射線障害によって生死の境で苦しみ、翌年4月に復学できたのは19人(そのうち出席できたのは13人)でした。その後、生き残った者も16歳、22歳、35歳、41歳、44歳、59歳の時に白血病で死亡し、60歳を過ぎると次々と多重がんになって死亡しました。82歳の今、生き残っているのは2人だけで、その1人の児玉光雄さんは19回のがん手術と闘いながら、核兵器廃絶をめざして被爆体験の証言を続け、爆心地から1 km以内で大量被曝した少年たちの全貌の記録をこのほど出版しました(文献1)。原爆は初期放射線だけでもこのような苦しみを与える非人道兵器です。

[…]

被爆70年、2015年NPTにむけ活用を!『原水爆禁止2014年世界大会の記録』発刊

2014表紙

今年の原水爆禁止世界大会は、2015年の次回NPT(核不拡散条約)再検討会議を来年にひかえ、2010年NPT再検討会議の「核兵器のない世界の平和と安全」を実現するとの合意の実行が問われる重要な局面で開催されました。最大の焦点は、核兵器禁止条約のすみやかな交渉開始を実現することです。

いま、圧倒的多数の政府が交渉開始を支持し、核兵器使用の非人道性を告発してその廃絶を訴える流れを強めるなど、次回再検討会議への動きを強めています。

国連上級代表、オーストリア、インドネシア政府代表の発言は必読

こうした世界の核兵器廃絶運動の到達点と課題を、国際会議、広島・長崎の各大会での決議、基調報告、海外の政府代表やNGO、全国各地のとりくみ報告などからつぶさに知ることができます。とりわけ、「この崇高な大義へのみなさんの貢献を称え、核兵器のない世界の実現をめざす私たちの共通のたたかいで、みなさんが多くの成功を収められることを期待します」との潘基文(パン・ギムン)国連事務総長が寄せた大会へのメッセージ(P.72)、アンゲラ・ケイン国連軍縮問題担当上級代表の講演(広島、P.130-132)、インドネシア(広島、P.84-86)、オーストリア(長崎、P.154-157)、マーシャル諸島共和国(P.140-142)など各国政府代表の発言は必読です。

また、運動の中心的課題となっている「核兵器全面禁止のアピール」署名と原爆写真展のすぐれた経験、被災地福島の現況と現在のとりくみと訴え、沖縄・辺野古の米軍基地建設反対のたたかいなど、魅力満載です。世界大会の報告会や学習会など被爆70年、2015年NPT再検討会議にむけたとりくみの飛躍へ、ぜひご活用ください。

●原水爆禁止2014年世界大会の記録(B5版/約200ページ)

頒価1500円(送料込)

ご注文は都道府県原水協まで。

政府広報のひどい過ち(沢田昭二)

さる8月17日、復興庁、内閣官房、外務省と環境省は、全国紙各紙と福島の県紙に「放射線についての正しい知識を」という政府広報の全面広告を掲載しました。福島県から避難されている人たちを対象にした講演からの抜粋です。

20ミリシーベルトの被曝基準を追認

広告の1面左半分は国際原子力機関(IAEA)保健部長の「国際機関により設定された科学的な基準に基づく行動をとってほしい」という表題です。

放射線関連の仕事に関わらない一般人の年間被曝線量限度は東京電力福島第1原発事故までは法律で1ミリシーベルトでした。原発事故以来その20倍も甘い基準に変え、3年半以上を経た今もそのままです。IAEA保健部長は「原子力事故が発生した地域で住み続ける人の被ばく限度は、基準値である年間20ミリシーベルトです」と述べて日本政府の基準を追認しています。チェルノブイリ原発事故後のウクライナとベラルーシの法律は年間5ミリシーベルト以上の地域は移住強制地域、年間1ミリシーベルト以上5ミリシーベルトの地域は移住権利地域で本人の判断で移住しても国が費用を負担する仕組みになっています。

原爆被爆者に遺伝的影響はなかった

1面右半分の東大医学部放射線科准教授中川恵一氏の講演抜粋はさらに問題です。

まず「全身に2000ミリシーベルトの放射線を浴びた方も多かった広島や長崎でさえ遺伝的影響はなかったと考えられています」と述べ、福島県内の中学の女子生徒が遺伝的影響を心配しているのはメディアの報道に問題があったのではないかとしています。放射線被曝による遺伝的影響は生物実験から明らかになっていることを中学生も知っており、心配は当然です。

韓国で広島の被爆者が多くいる陜川(ハプチョン)の調査では被爆者の子女23%が先天性奇形または遺伝的疾患を持つと報じられています。放射線影響研究所は広島・長崎の原爆被爆者について「疾患発生に及ぼす親の原爆放射線被曝の影響に関して結論を導くためには、今後さらに長期間の追跡調査が必要」としており、中川氏のように遺伝的影響を否定しているわけではありません。被爆者の流産や死産の場合に奇形や遺伝的疾患が多いことが確認されています。

外部被曝と内部被曝の違いと鼻血問題

漫画「美味しんぼ」の中で福島に行ったら鼻血が出たという描写があります。これについて論争が起き、安倍首相は根拠のない風評には全力で対応すると述べていました。中川氏の「鼻血が出るということにも疑問があります」の発言はその対応のひとつでしょう。中川氏は上咽頭がんの放射線治療を30年間してきたが、鼻血が出た方を1人も見たことがないと言います。

放射線治療を専門にしてきた西尾正道北海道がんセンター名誉院長は、鼻血の9割は血管の枝が密集しているキーゼルバッハ部位からの出血で、1ミクロンの大きさでも何億個もの放射性セシウム137の原子核を含む可能性のある放射性微粒子がこの部位近くに付着して集中的にベータ線を浴びせる内部被曝で鼻血を起こす可能性があると説明しています。上咽頭がん治療で鼻のこの部位に放射線を当てることはなく、中川氏は素人を誤魔化していると批判しています。

誤った知識で放射線防護の責任放棄

政府広報の下部には放射線と発がんの相対リスクの表が掲げられていますが、いずれも内部被曝の影響を無視して、被曝線量に対して過小評価の数値になっています。さらに100ミリシーベルト以下はリスクの検出が困難であるとしています。しかし、現在では10ミリシーベルト以下でも固形がんのリスクが増加することを示した多数の論文が発表されています。

放射性降下物による内部被曝の研究を

原爆被爆者の放射線影響の研究において、放射性降下物による被曝影響を無視・軽視してきたことが、国際放射線防護委員会やIAEAによる放射線の外部被曝と内部被曝のメカニズムの違いの無視につながり、放射性微粒子による内部被曝の無理解をさらけ出した政府広報につながりました。

これでは放射線防護はできません。放射線についての「正しい知識を」と言いながら、東電福島原発事故による放射線被曝から国民を守る姿勢に欠けた政府に都合の良い、しかし間違った知識を広めることになります。高額の税金を使った政府の責任は重大です。

(さわだ・しょうじ)

2015年NPT再検討会議ニューヨーク行動参加者の準備に役立つ内容満載 NPT第3回準備委員会(2014年4月)要請代表団報告集が完成!

報告集注文書

日本原水協は4月27日から5月7日まで、ニューヨークへ2015年NPT(核不拡散条約)再検討会議第3回準備委員会要請代表団を派遣しました。

代表団は、準備委員会に約370万筆の「核兵器全面禁止のアピール」署名を提出。核保有国など13か国の政府代表に要請をおこない、「被爆者の証言を聞く会」やNGO行事にスピーカーとして参加するなど、旺盛な活動を展開しました。

2015年再検討会議に向けて最後となった今回の準備委員会では、核兵器禁止条約を正面から求める非核国の平和運動とも協力して突破口を開こうとするさまざまな努力が示されました。

この報告集には要請団の活動のほか、このような各国政府の動きやNPTについての解説も収録されており、2015年NPT再検討会議に向けた学習活動、特に来年のニューヨーク行動に参加を予定されているみなさんの準備に役立つ内容となっています。近づく原水爆禁止2014年世界大会の成功のためにもぜひ広くご活用ください。

内容:B5版・42ページ 頒価500円(送料別) ☆トピックス☆ ・370万余筆の署名を準備委員会議長に提出 ・被爆者の証言を聞く会 ・核抑止の悪循環を断ち全面禁止へ:日本代表部へ要請 ・各国政府への要請:廃絶の約束の実行を ・ニューヨーク国際共同行動決まる:2015年再検討会議の焦点

その他、署名提出時の日本原水協の声明、日本政府への申し入れ、参加団員の感想なども収録されています。

注文先:日本原水協 Fax: 03-5842-6033

Email: antiatom55@hotmail.com

【神奈川】核持ち込み・核基地化61年と核兵器廃絶(神奈川県原水協代表委員・永沢丈夫)

米空母オリスカニが核兵器を積んで初めて米海軍横須賀基地に入港したのが1953年、いま横須賀が核基地化されて61年目を迎えています。

米原子力潜水艦スヌークが初めて横須賀に入港したのが1966年、それ以来、米原子力艦船の入港は通算883回に及びます。

原子力空母ジョージ・ワシントンが横須賀母港化を強行したのが2008年。米国が海外で唯一の原子力空母の母港にしているのが横須賀です。

そして今度はジョージ・ワシントンの老朽化を理由に、来年の2015年に最新鋭の原子力空母ロナルド・レーガンを交代配備させるといいます。

これは横須賀の恒久核基地化ではないでしょうか。

沖縄・辺野古の座り込みは、10年目を迎えています。辺野古への米軍新基地建設のために、あの辺野古の海に1200隻余の船を集積させるといいます(4月26日衆議院外務委員会、笠井亮議員)。あの美しい海を「基地建設船」で埋め尽くそうというのでしょうか。

その根拠は日米安全保障条約です。

近年、太平洋戦争放棄条約、北東アジア平和協力構想が語られています。

そして来年2015年はNPT(核不拡散条約)再検討会議、まさに核兵器禁止条約がテーブルに乗る、乗せなければならない年です。

その最大のネックとなるのが横須賀ではないでしょうか。沖縄ではないでしょうか。そして、日米安全保障条約ではないでしょうか。

もちろん横須賀があるからといって、沖縄があるからといって、日米安全保障条約があるからといって、日本で非核の政府が無理だなどと言うのではありません。横須賀があるからこそ、沖縄、安保があるからこそ政府に非核宣言をさせる重要性は増しているのは言うまでもありません。

問題はその論点、角度、切り口です。

核兵器廃絶と横須賀、沖縄は、核持ち込み、核基地化と表裏一体の問題です。決して切り離してはならないものです。最近、横須賀、沖縄が、核基地化が、少し脇に置かれすぎではないかと思います。

神奈川県原水協は横須賀を抱えているので、文字通り表裏一体です。沖縄もそうでしょう。当然のことです。

ひとつ紹介しておきたいことがあります。神奈川県原水協は「6・9行動」とともに「25日行動」を横須賀で毎月実施しています。2008年9月25日に原子力空母ジョージ・ワシントンが横須賀基地母港化を強行しました。それを忘れないと「25日行動」を設定し、ずっと続けているのです。この行動に新日本婦人の会神奈川県本部は県下全支部の月ごとの参加分担を決め、実行しています。毎月10人余の新婦人会員のみなさんが全県の支部から参加し、25日行動を支えています。これは優れた行動であるとともに、新婦人にとって宝物のような行動になっていると思います。もちろん核兵器廃絶署名、空母母港化撤回署名をともに集めています。

安倍政権下の目にあまる悪政のもとで、各団体・個人が目の前の課題と真剣に向き合うのは当然のことです。と同時に、全人類の運命的課題である核兵器廃絶と核基地機能強化反対についても全力をあげなければいけません。

原水協の運動はいつ、いかなる事態のもとでも、この点について表裏一体で警鐘を乱打し続けなければならないと思います。

東海第2原子力発電所が再稼働申請をした時、メディアはもし放射能事故が起きたら茨城を中心に100万の人口をどう避難させるのかと報じました。同じことは横須賀にも言えます。首都圏3300万人が暮らす超過密地帯、東京湾周辺、その入口である横須賀に原子力空母の軍事用原子炉2基が浮かんでいるのです。原子力潜水艦が入港すれば、3基、4基となります。しかも使用している核燃料は、原発はウラン濃縮度5%、原子力艦船は95%です。それは原子爆弾に匹敵します。その事故比は最新の資料で福島の20倍余といいます(5月12日、参議院決算委員会、田村智子議員)。

こんな危険と日本国民、首都圏住民が同居していることを世界の、アメリカの、どれだけの人が知っているでしょうか。

核兵器廃絶の日本の運動が知らせなければならないでしょう。来年のNPT再検討会議はその絶好の場でもあります。

最近のホットニュースでマーシャル諸島共和国政府が核保有9か国に対して「NPT第6条を履行せよ」と国際司法裁判所に提訴したといいます。政府が、です。マーシャルがここまできたかと涙が出ました。

私たちは被爆国日本の政府をまだ、ここまでは追い込んでいません。表裏一体の運動、私たちの運動の論理、角度、切り口を一層工夫・強化しなければならない所以です。

このごろつくづくと考えさせられることです。

『【ビキニ水爆被災60年】 2014年3・1ビキニデー集会の記録』発行

14.3.1記録申込書

▲クリック(PDF)

今年のビキニデー集会はビキニ水爆被災60年にふさわしく、その歴史と教訓を確かめ合う記念すべきものでした。マーシャル諸島・ロンゲラップ島を訪問中の元第五福竜丸乗組員の大石又七さんをはじめとする日本原水協代表団からの現地報告や、初めてビキニデー集会に参加した池田正穂さんのお話と、見崎進さんご夫妻のビデオメッセージ、安斎育郎さんの基調講演「ビキニ被災60年の検証とこれからの原水爆禁止運動」など充実した内容です。

また、2月27日におこなった日本原水協全国集会・国際交流会議でのジョゼフ・ガーソンさん、マラヤ・ファブロスさん、美帆シボさん、高草木博さんの発言と、28日の日本原水協全国集会・全体集会での安井正和事務局長の基調報告、さらにやんばる統一連代表の吉田務さんによる名護市長選挙をたたかった報告も全文掲載しています。

南太平洋ビキニ環礁でのアメリカの水爆実験に抗議して広がった原水爆禁止の署名運動は、核兵器全面禁止の声を世論の大勢とし、平和と民主主義への逆行、憲法改悪の手を抑え、国際的にも核兵器の使用を断念させた壮大なたたかいでした。

いま安倍内閣が憲法改悪、海外で戦争できる国づくりをすすめる中で、私たちの運動のあり方を考える上でも大変役に立つ内容です。

8月の原水爆禁止世界大会の成功から来年のニューヨーク行動へ、地域で署名を広げ、世論をつくるため、是非ご活用ください。

●B5版、92ページ。 ●頒価:700円(送料実費) ●発行:原水爆禁止世界大会実行委員会.3・1ビキニデー静岡県実行委員会 お申し込みは、FAX:03-5842-6031、またはEメールでお寄せください。 E-mail: antiatom55★hotmail.com ★を@に変えてください。

【東京】八王子市原爆被爆者の会が被爆の実相を「証言」集とDVDにまとめる

バングラ大使館 001

▲バングラディシュ大使館を訪れた上田さん(右端)、中央がモメン大使

八王子市原爆被爆者の会(八六九会)はこのたび、ベンガル語と日本語を併記し広島被爆者17人の「証言」集『広島の声』を出版。また、被爆の実相を伝える被爆者の「証言」をDVDにまとめました。

同会の上田紘治事務局長は、「全国各地で役員として活動している方に加え、八王子市在住被爆者も5人が執筆しています。在日22年のバングラディシュ人の方と協力し、3年がかりで出来上がりました。

多くの方たちが、被爆者の訴えを受け止めていただくと嬉しく思います」と「証言」集を製作した思いを語ります。

上田さんは先日、バングラディシュ大使館を訪問し、マスード・ビン・モメン大使と面談。大使は大変喜び、「今後、協力する」と嬉しいコメントもありました。外務省に「非核特使」を申請し、いずれバングラディシュを訪問する予定です。

後世に耐えうるものとしてDVD作成

DVDの方は、八王子の被爆者9人が小・中学校や平和展などで「証言」している姿を収録。

上田さんは「前者を子ども向け、後者を大人向けとしています。後世に耐えうるものとしてこれも3年前から行政の支援を受けながらとりくんできました。被爆の実相をひとりでも多くの方たちにご理解いただくことが、平和への一番の近道と思っています」と語っています。

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なぜ?がわかる 原水爆禁止2013年世界大会パンフレットを読もう

大会パンフ表紙

原水爆禁止2013年世界大会の学習パンフレットが好評発売中です。

岡﨑加奈子さん(自治労連中央執行委員・青年部書記長)の感想を紹介します。

 

核兵器廃絶への行動、いつやるの? 今でしょ!

いま、世界的に核兵器廃絶が高まっています。先日スイス・ジュネーブで行われた2015年NPT(核不拡散条約)再検討会議第2回準備委員会の要請行動に参加しました。そこで感じたのは、多くの国が核兵器のない世界に向けて核兵器禁止条約を望み一歩ずつ進んでいるということです。

特に今回の準備委員会で、「核兵器の人道的影響に関する共同声明」を発表した南アフリカ政府へ要請した際の言葉は印象的でした。一時核兵器を保有していた南アフリカが「南アフリカは政府の判断で核兵器を廃絶させた。2010年のNPT再検討会議で賛成したことを、締約国に大きな一歩を踏み出すよう言っていかなくてはいけない」と話されました。政府が判断しさえすれば、世界中から核兵器の脅威はなくなるのです。

では、なぜ核兵器はなくならないのでしょうか?

なぜ?がわかる

原水爆禁止2013年世界大会パンフレットでは、その「なぜ?」がわかります。いまの情勢がとてもわかりやすく解説されており、世界の各国政府が、核兵器禁止条約をすすめる行動を起こしていることがわかります。

また核兵器廃絶に向けて、被爆者の声に寄り添いながら、被爆の実態を知っている日本が行動を大きく広げていく意味もこのパンフレットから学ぶことができます。

今回のパンフレットには多くの自治体の市長も載っています。自治体として住民のいのち、くらしを考える上で、核兵器の脅威のない平和な世界を実現することは大切です。私たちの地元から草の根の運動をすすめ、核兵器廃絶の世論を広げていくことが、核兵器のない世界につながります。そのためにも多くの声を集める署名活動が大切です。ぜひこのパンフレットを読んで、核兵器の恐ろしさ、世界の流れ、運動の大切さを学んで一緒に行動しましょう!そして、一緒に原水爆禁止2013年世界大会に参加しましょう!

(自治労連中央執行委員・青年部書記長 岡﨑加奈子)

 

【インタビュー】瀬戸内寂聴さん、選挙を語る

瀬戸内寂聴さん

 

日本原水協は12月4日、『原水協通信』2013新年号に登場いただくため、瀬戸内寂聴さんのインタビューを都内で行いました。前半は総選挙のことを中心にした内容になりました。寂聴さんのご了解もいただき、その部分を原水協活動交流ニュースとして公表します(インタビュー全体は新年号に掲載されます。ご期待ください)。

していること、言っていることがぶれない政党に入れるべきね

今度の選挙はもうムチャクチャね。どこに入れていいかわからないと、みんなが色々言いますね。言うことすることぶれる人はだめですね。 広島・長崎と、原爆の被害に世界で唯一あっている日本が、原発に対して無神経ということは不思議なことです。人間に忘却という能力が与えられているのは恩寵(おんちょう)ですが、忘れてはならないことを忘れるのは業罰(ごうばつ)です。 今日の読売新聞(12月4日)には「脱原発だとかしきりに言うけれど、それじゃどうやってそれが実現できるかという方法を言わないのは間違っている」と言って、「選挙の時はそこをよく考えて入れろ」と書いてあるんですね。でも、原発が怖いということは、今度の福島のことでわかったじゃないですか。チェルノブイリは遠いからピンとこない人も福島は目の前に見たじゃないですか。その後始末ができてないんです。しかし、今度立候補した人たちの演説を聞きますと、誰もそれにふれない。そして、被害者たちをどうするかということは言ってないですね。選挙に勝てばいいという考えでしょ。脱原発と言えば有権者が入れてくれるらしいからというので、急に乗り換えて脱原発になったりして、本当に国民の側に立っていないですね。していること、言っていることが。やっぱり、ぶれていない政党に入れるべきです。その点では共産党は一貫してぶれないですね。 この選挙結果で来年のことも決まるでしょう。私たちには幸福になる権利があるんですから、どうしたら自分たちの幸福を守るかという方向に持って行かなければならないと思いますね。

核兵器のシミュレーションなどして戦争になると日本はなくなります

核兵器を持っていないと国際的な発言力が下がるとか、核兵器は必要だと弁舌さわやかに言うと、国民がそうだそうだと思うんですね。核兵器のシミュレーションぐらいしたらいいんだと外国特派員協会で言ったりしたことは、このままじゃ中国にやられると思っているからでしょ。だけど、アメリカと同盟を結んだって、いざとなったらアメリカは中国と戦いませんよ。もし戦ったら、両方が日本を助けるはずがないですからね。日本が沖縄みたいに両方から攻められて、盾になってしまって、日本が戦場になってしまうでしょう。その後はアメリカの州のひとつになるか、中国の省のひとつになるかで、将来日本はなくなりますね。そういう恐怖感というものはみんなあまり持っていないですね。

平和な日本は憲法9条のおかげですよ

国際的な流れで言うと核兵器はなくす方向は決まっているじゃないですか。どうしてそれに準じないのでしょうか。日本は原爆攻撃を二度も受けているんですよ。その日本で核兵器がなければいけないというのはおかしいと思います。この67年間、日本は一応平和に過ごせたじゃないですか。それはやはり憲法9条のおかげですよね。その憲法を変えようとしていることから、全部発生しています。国民がそれをよくわかってないんですね。

今度の選挙は天下分け目ですね

今度の選挙は本当にどうなるんでしょうかしらね。天下分け目ですね。でもマスコミではすでに自民党が取るということになっているでしょ。どうして?あれは不思議でしょうがないです。私はずっと共産党に入れているんですよ。でも入れても、入れてもほとんど取れないので私は党名を変えろというのが主張なんです。なんでもっと親しみのもてる名前に変えないのと何度も言ってきたの。でも今となっては党名を変えない方がいいみたいですね。いろんな政党が出てきてしまって。太陽の党なんて5日間しかもたなかったですからね。

核兵器廃絶の扉ひらく運動すすめる最適の学習資料『国際情報資料34』発行

2011年第66回国連総会は、軍縮と安全にかかわる決議を相次いで採択し、まさに、核兵器全面禁止、廃絶の声は世界のゆるぎない流れとして発展していることを示しました。

国連第1委員会の議論では、核兵器禁止条約も含めて、2010年NPT(核不拡散条約)再検討会議の決定の実行が強調され、特に、多くの国が核兵器国による実行を求めました。核兵器禁止条約の交渉開始を求めるマレーシア案(核兵器使用・威嚇の違法性についての国際司法裁判所の勧告的意見の後追い)は、賛成130、NPTのこれまでの合意の実行を求めたニュージーランド、メキシコなどで構成する新アジェンダ連合の決議は賛成169と、いずれも昨年に続き圧倒的な支持で採択されました。

また、今回新たな注目すべき動きもありました。北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるノルウェーは、オーストリアやメキシコとともに、核兵器禁止条約の交渉開始も含め、国連の責任で作業グループを設置することなどを求めた提案を行いました。これら重要な決議のみならず、期限を切った核兵器廃絶を正面から迫った非同盟運動の発言やオーストリア、ノルウェー政府の発言も収録しています。

さらに、国連第1委員会の冒頭に、セルジオ・ドゥアルテ軍縮担当上級代表は、「アラブの春はいまや中東だけの問題ではない、世界に民主主義の波が押し寄せており、軍縮にもそれが達している」と述べ、核廃絶のために第1委員会がその役割を果たすよう強調しました。そして、その中で、民主主義の波の具体的な表れとして、世界平和市長会議の署名と日本原水協が2010年NPTに提出した700万の署名に触れました。潘基文国連事務総長の講演の中でも、数百万の署名に言及しています。

国連は核兵器廃絶を最優先課題として実現しようとしていること、今、それが実現できる時代であること、そして、核兵器廃絶の扉をひらくためには、署名など市民社会の役割が決定的に重要であることを、この両氏の発言から深くつかむことができます。

また、「21世紀はアジア・太平洋の世紀」として、米国は世界支配戦略の中心をアジア・太平洋に大きく転換しようとしています。この問題についての論評とクリントン米国務長官の講演を掲載。欧州での米国とNATOのミサイル防衛の展開について、ロシアの強硬な声明も掲載しました。

21世紀の世界は激動しています。世界の変化を代表する、アラブの春、「オキュパイ・ウォールストリート」行動について、理解を深める論評や資料を掲載し、盛りだくさんで読み応えのある内容になっています。

 

ぶんちゃんのココがおススメ

まず読んでほしいのは、第66回国連総会において新たな動きを見せた発言の数々。2012年を何もせずに終わらせてしまわないよう呼びかけるのは、NATO加盟国であるノルウェー。「原子力のいかなる利用も破壊的な被害をもたらすリスクがある」とオーストリア。メキシコとともに、この3カ国は核兵器廃絶を国連の責任で確実に進めていくことを強く提案。ほかにも非同盟運動の積極的な発言など、期限を切った核兵器の完全廃絶を迫る各国政府の言葉に、思わず拍手!

ところが、この流れをまたも逆行させる最大の核保有国。「米国の太平洋の世紀」と題した、ヒラリー・クリントン国務長官のフォーリン・ポリシー誌への寄稿文には、実にはっきりとアジアを米国の支配下に置くべく戦略が。加えて、マイケル・T・クレアの論評「オバマのチャイナ・シンドローム」に、経済危機と国内の怒りから逃れようとする米国の焦りと、日本政府が沖縄新基地・TPP加入・社会保障と税の一体改革を急ぐ理由もこれに見て取れます。

しかし、圧倒的多数の国が「核兵器のない世界の平和と安全の達成」を望んでいる事実は消せません。700万人に及ぶ人たちの署名を直に受け取った驚きと喜びと、草の根の運動が大きな力を持っていることを示すセルジオ・ドゥアルテ国連軍縮問題担当上級代表の発言。世界の変化を代表する「アラブの目覚め」「エジプト緊急レポート」、オキュパイ・ウォールストリートから「世界で一番大事なこと」、そして「パン・ギムン国連事務総長の東西研究所核軍縮会議での講演」は、私たち一人ひとりの粘り強い行動に共感と、大きな期待を寄せています。

眉唾の民主主義と、核の安全神話はもういらない。現実にある核兵器廃絶の後押しをするためにも、この一冊は欠かせません。(大越文)