原水爆禁止2003年世界大会
国際会議

科学者集会実行委員会/日本科学者会議事務局次長
野口 邦和


関連行事/科学者集会

  原水爆禁止2003年世界大会・科学者集会は、「人類の岐路に立ち核兵器と戦争のない未来を展望する」をメインテーマに、去る8月2日、名古屋市中小企業振興会館で開催されました。この集会は、原水爆禁止世界大会の関連行事として1987年以来毎年開催されているもので、今回で16回目となります。

  集会には日本各地の科学者に加え、イギリスの核軍縮運動(CND)副議長のケイト・ハドソンさんやアン・マジョラムさんなど海外からの参加者を含め、全体で21都道府県から110名が参加しました。また、集会では海外からの特別報告を含め5つの報告と1つのコメント、そして4人のパネリストによるパネル討論にもとづき、全体でのべ27名が発言しました。

  「大国による一方的な武力行使が世界秩序に与える影響」をテーマにした松井芳郎(名古屋大学、国際法学)氏による基調報告は、「人道的干渉」を理由としたコソボ戦争(1999年)、「対テロ戦争」を理由としたアフガニスタン戦争(2001年)、「査察違反」を理由としたイラク戦争など、近年における大国の一方的武力行使の正当化がほとんどもっぱら武力の「正当原因」に求められていることが世界秩序をどこに導くかについて考察し、正当化理由を「正当原因」に求めることは「正当原因」のある戦争だけを正しいと認めた中世の伝統的国際法における正戦論の復活(=現代の正戦論)であることを明らかにしたものでした。そして現代の正戦論は、@武力の「正当原因」の存在はそれを行使する国が認定するので、一部の大国が有する価値観を世界に押しつけることにつながる、A伝統的正戦論が「正しい」側につくことを強いて戦争の拡大をもたらしたように、現代の正戦論も「テロリストにつくか、われわれにつくか」といった粗暴な二分法によって武力行使の拡大を招く、B相手は対等な交戦者ではなく犯罪者か「ならず者国家」であるので、武力紛争法を適用する根拠は失われ戦闘が残虐化すること。さらに、武力行使を見る視点は合法性だけに限定されず、武力行使が政治的・道義的に支持できるものかという正当性の問題も重要な考慮要因であること、また国連安保理による恣意的な決定を退けるためにも、何が平和に対する脅威を構成するのかについて国際社会の合意を早期に確立することの必要性を強調したものでした。

  「反戦運動発展の要因は団結・多様性・国際共同」をテーマにしたケイト・ハドソン(サウスバンク大学(ロンドン)、CND副議長)報告は、イギリスの反戦活動家さえも驚かせた今年2月15日の200万人という史上空前の反戦運動を組織した経験を踏まえ、このような反戦運動を組織できた理由を分析したものでした。その理由は、運動を組織したCNDを含む3団体が、@思想・信条の違いを超えて「イラク戦争反対」という一致点での団結を守ったこと、A反戦運動を反グローバル化運動や反帝国主義運動などのさまざまな運動をも巻き込みながらすすめた、すなわち運動の多様性を大切にしたこと、B世界の反戦運動と結合させながらイギリス国内の反戦運動をすすめたこと、すなわち国際共同という視点を大切にしたこと、です。また、イギリスにおける反戦運動、反原発運動、環境保護運動などで科学者が果たしている役割の重要性についても言及し、私たち日本の科学者がイギリスをはじめ世界各国の科学者やNGOと情報交換を活発に行い、相互に学び啓発していくことの重要性を改めて認識させてくれた報告でした。

  今日の情勢を深め私たちの運動の課題を明瞭にするため、昨年に続いて今年も行われたパネルディスカッションでは、4人のパネリストがそれぞれ問題提起を行いました。

  「日本の『有事法制』の特質」について問題提起した小林武(南山大学、憲法学)報告は、日本の「有事法制」の特質は、@軍事的な法制に特化した軍事法制と呼ばれてしかるべきものであり、軍事力を否定した憲法とは原理的に両立不能である、A武力攻撃事態法の中の対米追従条項が物語るように、アメリカの先制攻撃に協力できるように自衛隊と国民を動員する役割を担った、徹底した対米追従にある、ことを明らかにしたものでした。また、「有事法制」は制定されたとはいえ「国民保護法制」その他の必要な法制が整備されていない未完の法制であり、「有事法制」を未完のまま葬り去ることができるか否かは日本の平和勢力の運動にかかっていることを強調したものでした。

  「中東和平とイスラーム」について報告した鈴木則夫(愛知大学、政治哲学・国際関係論)報告は、欧米列強の国益バランスの結果、中東地域の地図上に勝手に国境線が引かれ、イラクをはじめとする現代の中東諸国が創作されたことに中東混迷のルーツがあることなど、問題提起というよりはむしろ、一般の日本人にはなじみの薄い中東問題のABCについて紹介したものでした。

  「ブッシュ政権の新しい核政策・核戦略−核抑止の『たてまえ』も投げ捨てた核兵器使用計画−」について問題提起した杉江栄一(元中京大学、国際政治学・軍縮問題)報告は、@ブッシュ政権の核態勢見直し(NPR)は非核兵器国を対象とする核兵器使用計画である点に特徴がある、ANPRの3本柱のひとつである核兵器と非核兵器の統合は、核兵器使用のしきいを低めるものである、B核抑止の「たてまえ」は核報復によって核兵器を保有する仮想敵国の核兵器使用を阻止する戦略、すなわち核戦争回避策であったが、ブッシュ政権はこの「たてまえ」をも捨て去って核兵器使用計画を推進する危険な政権である、ことなどを明らかにしたものでした。

  「『新しい帝国秩序』とイラク戦争」について問題提起した木村朗(鹿児島大学、平和学・国際関係論)報告は、@9.11事件後の世界は、ネオコンが主導する米国中心の「新しい帝国秩序」と市民・NGOによる国連を軸とする「多元的世界秩序」が衝突しせめぎ合っている、Aイラク攻撃を阻止できなかったことを理由に国連の機能不全や権威失墜を強調するのは間違っており、むしろ国連の多国間主義が今回ほど見事に機能したことはなく、イラク問題への対応を通じて国連が世界的民主主義の中心であり国際正統性を付与することのできる唯一の普遍的存在であることを実証した、B日本は米国に追従して「新しい帝国秩序」の中で「第二のイギリス」あるいは「小さな米国」をめざすのか、それとも主体的な外交政策を展開して民主的・平和的な「多元的世界秩序」に貢献するのかが問われている、ことなどを明らかにしたものでした。

  以上に加え、特別報告として、原爆症の認定を求めて訴訟を起こしている広島の入市被爆者である甲斐昭さんから、原爆投下直後の広島の生々しい惨状と御自身の原爆後障害との闘いについて「被爆者の証言」を伺いました。関連して、沢田昭二(元名古屋大学、理論物理学)氏から「原爆症認定集団訴訟と原因確率」についてコメントをいただきました。また、村田芙美(京都大学大学院生)氏からは原爆が樹木に与える影響について報告を受けました。

  さらに、亀山統一(琉球大学、林学)氏から、安保・基地問題の矛盾の集中点である「沖縄からの報告」を受けました。亀山報告は、沖縄米軍基地の現状、名護市に建設予定の巨大海上基地が沿岸生態系に与える影響などについて紹介したものでした。

  討論では、@国内外に目に見える反核平和運動をすすめていくことの重要性、A原子炉の安全審査がまったく行われていない原子力艦船が首都東京から60キロほどのところにある横須賀米軍基地に停留する危険性と同基地の原子力空母母港化の問題、B日本と韓国の平和のネットワークづくりの一例として、旧三菱重工名古屋航空機製作所における朝鮮女子勤労挺身隊訴訟に対する支援の訴え、C核兵器廃絶運動や環境保護運動の中で科学者が果たす役割の重要性、などさまざまな問題について、それぞれメインテーマを深める形で意見が表明されました。

  最後に、集会の成功のためにご尽力いただいた日本科学者会議愛知支部など、愛知県内の諸団体、私たちの集会に参加し貴重な報告をしてくださった核軍縮運動(CND)副議長のケイト・ハドソンさんに心から感謝いたします。

  以上で原水爆禁止2003年世界大会・科学者集会の報告といたします。ありがとうございました。


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