原水爆禁止2003年世界大会
国際会議

フォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス
研究員
ハーバート・V・ドセナ


WTO:別の方法での戦争
戦争反対勢力はなぜWTOにも反対すべきか

  2001年9月11日の数日後、アメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領は、「テロリストは世界貿易センターを攻撃したが、われわれは世界貿易を拡大・促進することによって彼らに勝利するであろう」と述べた。世界貿易機構(WTO)交渉のトップであるロバート・ゼーリック米通商代表はこの大統領の方針に沿って、「対テロ戦争」と「自由貿易」は表裏一体の強力な武器でなければならないと述べた。

  翌年、ブッシュは「米国家安全保障戦略」というアメリカの外交政策目標を明確化した文書の中で、武力行使の指針を打ち出した。ここにははっきりと、「米国の外交政策で何より重要なことは、世界における米国の経済的・軍事的優勢を維持することである。アメリカが世界唯一の超大国であり続けるよう、いかなるライバルの台頭をも阻止するために、米国はその力の及ぶ限りあらゆる手を打つ」と述べられている。

  この目的を達成するため、「われわれは、民主主義、発展、自由市場、自由貿易の希望を世界の隅々にもたらすよう積極的に努力する」とこの文書は宣言している。この戦略は、「自由」貿易と「自由」市場にもとづいた「国の成功のための唯一の持続可能なモデル」を発見したと主張し、そのモデルを世界中に広げ実施する責任をアメリカが引き受けるとしている1

  ほかならぬ米国大統領自身と彼の政府は、貿易の問題は戦争の問題と切り離せないと信じている2。この両者のつながりは、明確に、いささかのあいまいさもなく、そして不可分なものとして、米国の外交政策のなかに明記されている。しかしながら、戦争のコストと影響に取り組んでいる者たちは、貿易の問題には取り組む必要がないと考えているようであり、一方、貿易で頭がいっぱいの者たちは、貿易は戦争とまったく関係ないと考えているように見える。これらの人々はいずれも「対テロ戦争」が実は「貿易のための戦争」であることに納得していないのである。

  しかしこの戦争を開始し、継続している人物たちは、その中にはいない。

ある目的のための軍隊

  1989年、ベルリンの壁がくずれ、ソ連の内部崩壊を告げるとともに、アメリカ合衆国は突然、自国の強大な軍事力の矛先を向けるべき敵を失ってしまった。しかし、その後数年間のあいだ、軍事力は大幅削減されるどころか、国政術の道具としての軍事力への依存がますます強まった3のである。9・11テロ攻撃は米外交政策の軍事化の強まりにさらに拍車をかけた。アメリカはこの機会を有効に捉えて、終わりなき「対テロ戦争」を開始したのだ。

  明白な超大国として、アメリカは世界の警察官としての役割を自任し、世界中に軍事基地を張りめぐらし、瞬時に出動できる態勢にある軍隊を配備している。アメリカはしかし、自国の強大な軍事力を客観的な基準で行使し、世界に正義と公正さを広めようとするような私欲のない中立的な警察官ではない。アメリカの軍事力行使には一つの目的がある。

  その目的は何だろうと疑問に思われるかもしれないが、ジョージ・W・ブッシュ大統領自身がその点を十分明確にしている。大統領選の候補者討論会で、ブッシュ氏は、「第一に問題となるのは、何がアメリカの最善の利益になるかという点だ」4と述べた。1950年代に、ジョージ・ケナン元国務長官は、「アメリカは世界人口のわずか6%だが、世界の資源の50%を握っている。よって、この格差をいかに維持することがアメリカの課題だ」と語っている。

  それ以来数十年にわたって、この不公平を維持するために「自由」貿易という考え方がかなめとなってきた。アメリカの企業の製品を売り込むために外国市場を開放させることは、一世紀以上にわたりアメリカ国家安全保障の支柱であり、数十年のあいだアメリカのエリート支配層を引き付けてきた最も重要な目標であり、彼らを結束させてきた外交政策のコンセンサスであった。冷戦時代にアメリカのおこなった反共十字軍の正しさを信じている元将校のアンドルー・ベースヴィッチ教授は、最近の著書「アメリカ帝国:米外交政策の現実と結果」のなかで、外国市場参入という目標は、長年にわたる米外交政策の態勢をもっとも適切に説明し理解するためのカギであると述べている。確かに、すべてを説明するものではないとしても、かなりの部分はこれで説明がつくだろう。

  「アメリカの戦略を導いているビッグ・アイデア(重要な理念)は、開放である。それは商品、資本、人々、考え方の移動に障壁となるものを取り除き、そうすることによって、アメリカの利益につながり、アメリカの基準で支配され、アメリカの力で統制され、そしてなによりも、さらなる豊かさを求めるアメリカ国民の期待にこたえることのできる、アメリカの利益になるような統一的な国際秩序を促進することである」5。このビッグ・アイデアは、つねに、着実にアメリカのエリート達を導いてきた。彼らが共和党員であろうと民主党員であろうが、グローバリストであろうとナショナリストであろうと、一国行動主義者であろうと多国間主義者であろうと、また異なる外交政策の目標を唱えることで、ライバルとの違いを際立たせようといくら努力していても、彼らのあいだにその点での相違点はなかった。ベースヴィッチは、アメリカのエリート層は、たたき手は異なってもこのかんずっと「『開放』という同じ太鼓」をたたいてきたのだと述べている。

隠された手と隠された拳

  ベースヴィッチは、その「ビッグ・アイデア」が今日でもなお意味をもち、有効であり続けている背景には、二つの要因があると論じている。その一つが文化である。現在のアメリカのような個人の自由、消費主義、文化的多様性の概念が支配的な国や時代には、国民をひとつにまとめていた「国家」という神話は通用しなくなっている。階級間の緊張を和らげ、一つの「国家的」目的に国民を動員するための唯一の方法は、国民の消費と自己実現の要求に訴えることしかない。こうして、経済成長と豊かさを継続させることが、国民がばらばらになるのを防ぐために絶対に必要なものとなる。

  問題は、もはや、アメリカ国内市場に依存するだけでは経済成長を継続させることができなくなっていることである。よって、国内だけではもはや消費しきれない製品のはけ口として外国市場を無理やりにでも開放させる必要が出てくる。これはマルクス主義の過剰生産理論のたんなる焼き直しではない。歴代の米政府高官はこの理論をとうとうと述べている。元国務長官のウォーレン・クリストファー自身も、「われわれはアメリカ国内での製品販売だけに頼っていては繁栄を維持できる限界を超えてしまった」と述べた。マデリン・オルブライト元国務長官は、「われわれ自身の繁栄は、アメリカの輸出、投資、考え方を受け入れてくれるパートナー国をもてるかどうかにかかっている」と認めている。外国市場へのアクセスなしには、「アメリカはもはや国内の源泉だけでは十分な成長、雇用、利益、貯蓄を創出することができなくなった」とエール大学経営学部大学院学部長で元商務長官のジェフリー・ガルテンも述べている6

  言い換えれば、アメリカ合衆国が生き延び、国家安全保障戦略が展望するように世界唯一の超大国として君臨する道は、世界の他のどんな国をもしのぐ経済的優位性を維持すること以外にない。しかし、それは国内の繁栄の継続を保証することなしには不可能であり、それにはつまり外国の「開放性」が不可欠である。ローレンス・サマーズ元財務長官は、「貿易とは、別の方法で平和を追求することである」と述べたことがある。

  よって、アメリカの自由市場を求める衝動は、自らの国家安全保障上の緊急課題と結び付いていて、たとえこれらの課題の支持勢力のあいだに意見の相違や時には対立があったとしても、それと切り離すことができないのである。アメリカの経済的覇権は、アメリカの戦略的あるいは軍事的支配を温存するために不可欠である。しかしこの戦略的覇権も、一方では、アメリカ自身の経済的優位性を守るために展開されるものでもある。

  ニューヨークタイムズ紙の外交問題の花形コラムニストであるトーマス・フリードマンは、この関係の側面を次のように絶妙に説明している。「市場の隠れた手は、隠れた拳なくしては決して機能しない。マクドナルドは、F-15戦闘機メーカーのマクダネル・ダグラス社なしには繁栄できない。そしてシリコンバレーの技術が海外進出するために安全な世界を維持している隠れた拳は、米陸軍、空軍、海軍、海兵隊と呼ばれている」。

WTOの登場

  マデリン・オルブライト元国務長官は、アメリカの「開放」戦略の遂行に使われる戦術とは、「可能なときには多国間主義を採用し、必要なときには一国主義で行く」ことだと述べたことがある。

  「政策の一貫性」を実現するために国際通貨基金(IMF)や世界銀行(WB)と連携しているWTOは、その制度において、車の両輪のようにアメリカの外交政策をつき動かしている経済的要因と軍事的要因という互いに絡み合い、補強しあっている双子のあいだの意見の一致と、力関係を具現化している。

  WTOを、貧しい国々でも大国と同じ権限を持つことができる多国間交渉機関として売り込むために、アメリカは最大限の努力をおこなってきた。しかし、国際経済学研究所長であり、有力な「自由」貿易論者であるC・フレッド・バーグステンは、米上院での証言で、WTOの存在理由をもっとも的確に要約してこう述べている。「いまやわれわれは、この国際機関の影響力を最大限に利用することで、貿易障壁を追及し、縮小させ、取り払うことができるようになった」7

  WTOは、外国市場を開放させることによってアメリカ国内の平和を維持するために生まれたのである。

「安全保障上の除外」

  WTOは市場開放のために役立つ道具である。しかし一方でWTOは、アメリカの圧倒的な軍事的優勢を固定化し、守るための機関でもある。

  ほとんど知られていないことだが、WTOは、GATT(訳注:関税と貿易に関する一般協定、WTOの前身)21条の、いわゆる「安全保障上の除外条項」を温存している8。この条項は締約国が、「・・・武器、弾薬及び軍需品の取引、ならびに軍事施設に供給するため、あるいは戦時あるいは国際関係の有事の際に直接または間接に行われるその他の貨物及び原料の取引に関しては、自国の安全保障にかかわるような重要な利益の保護のために必要とみなす」9措置をとることを認めている。

  名目上は農民にたいする補助金を含め、経済のすべての部門への補助金禁止を唱える一方で、WTOは各国政府が自国の兵器・防衛上産業にだけは補助金を出すことを許しているのである。また、国内の未成熟産業を政府が保護することは禁止されているが、軍産複合体の保護は自由におこなうことができる。言い換えれば、この「安全保障上の除外」は、世界唯一の超大国アメリカの絶対的な軍事的優位を維持・主張するために不可欠な産業である軍事産業を守り、強化するものなのだ。

致命的な除外

  世界において戦略的優勢を維持しようとすれば、アメリカは産軍複合体を保護しないわけにはいかない。アメリカ政府が自国の防衛産業を世界の自由市場競争の猛威にさらすなどとても想像できない。実際、アメリカは「安全保障上の除外」条項を援用して、防衛産業を保護することで、世界の軍事化、すなわち世界各国の過剰なまでの軍事支出や軍隊への過度の依存を助長している。

  これはいくつかの形で現れる。まず、アメリカ政府の補助金のおかげで、兵器の生産コストは低下し、よって兵器供給は増大し、価格が下がり、兵器が容易に手に入るようになる。軍事産業を保護した結果、自由市場に銃があふれてしまうのだ。これまで10挺しか拳銃を買えなかった国が、(見えざる手のおかげで)今や100挺買うことができる。

  世界は不安定化し、不拡散条約が守られず、国際法の違反者たちが罰せられることなく支配し、唯一の超大国が圧倒的な軍事力を使って自国の利益ばかりを追い求めている。このような世界においては、各国が自分の国ももっと軍事力を持つべきだと考えるのも無理はない。

  多国籍兵器企業は、マーケティング予算をふんだんに使い、このような不安につけこんで製品を売り込むことができるだろう。例えば、Xという爆弾をA国に売ってからB国に売り込めば、B国はA国が支払った額をみて、それを上回る数量のX爆弾を買うだろう。しかし、それを知ったA国は、もっと注文を出すだろうし、B国もまたそれを上回る量を注文する・・・。不安定な世界で安価な兵器を積極的なマーケティング戦略で売り込めば、際限ない軍拡競争という結果を生む。

最優先される安全保障

  この致命的な悪循環に加えて、いまやWTOによって兵器企業を除くあらゆる産業への補助金が禁止されている。ある国の政府が、真面目にWTOの規則を守りながらお金を使おうとすると、国内の農家には補助金を出すことはできない。WTOの規則に違反するからだ。そのうえ、新興産業や国内産業にも補助金を出すこともできない。しかし、政府は「安全保障上の除外」によって「国家安全保障」の分野では完全な自由を与えられているので、結局は兵器産業にお金を注ぎ込むことになり、稲を植えるためではなく、爆弾をつくるために人々を雇用することになるのである10

  安価な爆弾や戦闘機がほぼどこでも手に入ることと、WTOが政府にたいし「国家安全保障」以外に正当にお金を使う選択肢を殆ど認めていないことが組み合わさり、最終的には国家予算に占める軍事費の割合が法外に膨れ上がる。

  しかし、国のお金が銃弾を買うことに使われると、その分だけ本を買うお金が減ることになるため、このような軍事化は戦争が増殖する土壌を肥やすことになる。産軍複合体の脅威を警告したかつての米大統領ドワイト・デビッド・アイゼンハワーは、「一丁の銃の製造も、一隻の戦艦の進水も、一発のロケットの発射も、結局は、それぞれが飢えても食べ物が与えられない人々や寒くても着る服が与えられない人々から、盗むことを意味する」と述べている。

  増えすぎた爆弾や兵器は、究極的には、そのために使われた資金をいちいち正当化しなければならないという重圧になって政府を圧迫する。膨れ上がった軍事費を正当化する必要性は、脅威を誇張し、外交や政治交渉などで解決できる紛争を、軍事的に解決することを助長する。

  軍事的解決を選択することは、ひるがえって弾丸の需要を増やし、それが本を買うお金を減らすことになり、さらにそれがさらに多くの戦争を生み出す。このように際限のない軍拡競争は、世界最強の国の軍事的優位性の保護という要求によって拍車がかかり、悪循環へとすすむのである。

WTOのルールの本質を露呈した除外条項

  すべてのWTO加盟国は「安全保障上の除外条項」を援用することができるが、この条項でどの国がいちばん得をしているのかは明らかである。実際、アメリカの軍事費は、その後に続く軍事費大国27カ国を合わせたより大きい。この軍事費は、数十億ドルにのぼる契約や補助金の形で、巨大な多国籍企業に注ぎ込まれている。アメリカだけで、世界の武器輸出全体のほぼ半分を占めている。またアメリカ経済を支える4本柱の1本は、戦争である。軍需品の製造は、アメリカの国内総生産(GDP)の4分の1に相当する。

  しかし得をするのは防衛産業だけではない。除外条項は各国に「安全保障にかかわる重要な利益」とはなにかを勝手に解釈する権限を与えているため、簡単に利用することができる抜け穴となっており、これを使って各国政府は、隠れた補助金を与えることで、すでに巨大化している防衛に関係のない産業までも保護することができるのである。要は、これら防衛に関係のない産業が国の安全保障に不可欠だと主張すればいいのである。

  ソ連の元首相ニキタ・フルチショフは、冗談で、ボタンは兵士のズボンがずり落ちないように留めているので、疑いもなく軍需品であると言ったことがある。また、これは冗談ではないが、歩兵隊は戦争で戦うために靴が必要だから、靴産業を保護しなければならいという主張もされた。

  しかし、除外対象としてその製造が保護されている軍用輸送機ボーイングC-17グローブマスターは、すでに民間輸送会社にも販売されている。また、これほど直接的ではないが、ボーイング社は、補助金のおかげで軍需生産部門では利益をあげており、その利益を商業航空機部門が赤字になった際にはその赤字の補填に使うことができる。WTOの最大級の支持者であるボーイング社のほかにも、ジェネラル・エレクトリック社、AT&T、ジェネラル・モーターズのように、性格上は軍需品ではない製品を生産している企業も、長年にわたって数十億ドルの国防関係契約を結んだり、研究助成金を受取っている。例えば、農業、生化学、製薬などの部門の企業にも、アメリカ国防省は巨額の研究開発資金を提供している。

  これらの契約や補助金のおかげで、アメリカの企業は巨大企業としての地位を築き、競争相手にたいする技術的優位性を保つことができるのだ。アメリカのGNPの25%を占める純粋な軍需品に、防衛には関係がないが、防衛関係の契約や補助金を受けている企業の製品を加えてみると、アメリカ経済全体を保護するうえで「安全保障上の除外条項」の重要性はさらに際立ってくる。

  換言すれば、「安全保障上の除外」によって、アメリカはひそかにある種の産業振興政策を実施することができるのである。この政策は、まさにアメリカが世界に押し付けている自由市場の思想によれば、言葉の上では嘲笑すべきものとされているものの、アメリカにとっては戦略的利益だけでなく、経済的利益にも役立っているのである。

  わずかに取り繕われたこの産業振興政策は、WTOの圧力でアメリカ企業にたいして国内市場を開放させられ、苦戦している途上国の国内産業を犠牲にして、アメリカが対抗している国にたいする優位性を維持するために、自国の産業を育成することを可能にしているのである。

  「安全保障上の除外」はWTOの本質を暴露している。このあまり知られていない第21条は、WTOのルールとはなにかを如実に物語る条項である。この条項をみればWTOは、その意図も目的も自由貿易などではないことが確認できる。また、WTOの擁護者たちが、実際には言われているような厳格なイデオローグではないことを証明している。彼らは、各国政府にも果たすべき正当な役割があると考えているからだ。しかし、除外条項が示しているように、彼らの考える政府の役割とは国民を食べさせ、教育し、仕事を与えることではない。軍隊を強化し、産業を支援することなのである。

  WTOは他の多国間機関と同じく、自国の利益だけを追求する単独行動主義のアメリカが多国主義を装うために利用されている。実際、アメリカはWTOを利用して、大国間の貿易上の対立を管理し、世界での自らの技術的優勢を確立し、自国についてはあつかましく保護貿易主義をおしとおしながら、途上国には自由貿易を強制している11。自由貿易がアメリカの国益にかなうとところでは、それを主張し、そうではないところでは除外条項を巧みに利用しているのだ。

他の手段による戦争

  貿易は国内の平和を希求する一つの手段であるかもしれないが、そのような平和はときには膨大な代償をともなうことがある。

  ある人にとっては、多国間交渉という看板をかかげて、市場開放というばかげた大計画を実行した結果は、戦争がもたらす影響とさほど変わらない。この「開放」のもたらす被害は、ある意味で、戦争のもたらす被害と区別不可能である。1991年の経済崩壊の結果、市場の「自由化」の処方箋に奴隷のように忠実に従ったアルゼンチンが被った損失や破壊は、雨のように爆弾を降らされた国の被る損失や被害とどれほど違うというのか。WTOのルールで手に入らなくなった安価な薬があれば生き延びられたかもしれないエイズの犠牲者の死は、巡航ミサイルにやられたイラク人の死とは違うのだろうか。

  ノーベル経済学賞を授賞したジョゼフ・スティグリッツは、IMFを容赦なく批判し、「開放」を説き、押し付ける人々の使う手法は、滅菌室のようなハイテク戦争に用いられる手法に等しいと述べている。事実、スティグリッツも指摘しているように、5つ星の高級ホテルの快適な部屋で、一国の経済政策を決定しているIMFのお抱え経済学者と、地上5万フィートの遥か上空から爆弾を投下する戦闘機パイロットとどれほどちがうのだろうか。

  多くの国で、ばかげた大計画は、それが適用された分野で人々の雇用と暮らしを破壊し、不平等を拡大し、世界中で大衆の生活水準をいっそう低下させてきた。ジョージ・ソロスが「市場原理主義」とよんでいる企業本位の市場開放を支えているこのビッグ・アイデアという一連の考えは、1980年代から実施されてきたが、成功した例は少なく、はなはだしい失敗例が多い12

  これらの失敗と、それがうみだした貧困と不平等の状況は、ひるがえって、内戦を助長している。世界銀行も、内戦の多くは、つまるところ経済的な原因でおきていると自ら認めている13。オスロに本部がある平和研究所は、内戦によって破壊された国に共通の特徴として、貧困、高い頻度の対外債務、IMFの厳しい介入などを指摘している14。多くの中東諸国をはじめ、南側の国にたいするIMF政策の強制は、暴君や独裁者にたいするアメリカの支援とあいまって、人民の不満や弾圧をつくりだし、それが「テロリスト」を生んでいる15ことを知らせることが急がれる。

野蛮な武力による「開放」

  市場開放の同意が得られない場合、アメリカは野蛮な武力行使で市場を開放させる。オルブライトがはっきりと述べているように、アメリカは、やらなければならないことは必ずやるのだ。「開放」戦略が脅かされたり、多国間交渉という建前ではその戦略をすすめられなくなると、アメリカはためらうことなく、不安定化のための密かな陰謀やCIAの組織するクーデター、様々な形での軍事介入、そして極端な場合には露骨な侵略などを実行に移す。

  実際、1953年に新しく選出されたグアテマラ政府の土地改革計画で、ユナイテッド・フルーツ・コーポ―レーションという米企業の土地所有があやうくなったときにアメリカがやったのも、まさにそれだった。同年、イランで政府が石油産業を国有化したときも、1964年にブラジルで大統領、が多国籍企業が自国に送金する利益に制限を課したときも、1990年代にザパト派が北米自由貿易協定(NAFTA)の実施を妨害したときもそうだった。これらは過去の事例の一部にすぎない16

  しかし「開放」へと導く道が、戦争へ導く道と同じであることを示す最良の事例は、最近のイラク侵略ではないだろうか。大量破壊兵器が発見されなかったため、イラクはアメリカに脅威を及ぼしているという主張が、実はアメリカの戦争遂行の経済的な動機を隠すためのカモフラージュであったことが疑いもなく明白になった17。「ノー・ロゴ」というベストセラーの著者ナオミ・クラインは、いみじくも、この侵略をある種の「偽装された民営化」と表現した。

  爆弾の雨を浴びたイラクは、アメリカの企業がさらに繁栄する肥沃な土壌となった。アメリカ企業が、アメリカ人自身が破壊したものを再建するための千億ドル以上の契約を獲得することになっているからである。かつて国営であった教育機関、水道、電気事業および交通・通信事業などを引き継ぎ、それによって利益を得ることになるのもアメリカ企業である。さらにアメリカは、イラクや近隣アラブ諸国という甘い果実を十分熟してから摘み取れるように、中東自由貿易地域(MEFTA)18の計画をうちだした。

  言い換えれば、露骨な武力行使による「開放」の追求としてのイラク侵攻は、平和的手段によらない平和の希求にほかならない。クラインの言葉を借りれば、イラク侵攻が示したのは、「アメリカはひそかなおどしによって市場を開放させる"ライト自由貿易"方式から、先制攻撃の戦場で新たな市場を獲得する"スーパーチャージ自由貿易"方式へと、そのやり方をいとも簡単に変えるということである」19

まとめ

  貿易あるいは米企業に海外市場を開放させることこそ、アメリカの国家安全保障のかなめ石であり、したがってアメリカの対外政策の一つの支柱である。したがって、WTOをはじめとする多国間交渉機関ですすめられているようなアメリカ本位の貿易「自由化」の日程は、力関係や現実政策上の考慮には含まれないと考えるのは誤りである。アメリカが「開放性」を求めるのは、市場の開放そのもののためではなく、経済的優位性維持のためであり、それがアメリカの戦略的支配を強化することになり、さらにそれが経済的優位性を守るためになるのだ。

  これは戦争へと向かう希求である。第一に、アメリカによる軍産複合体保護は世界の軍事化を増長する。第二に、「開放性」はその経済的影響によって、内戦や社会階層間の対立を助長する。自ら「開放性」の対象となっている国々のこうむる損失や破壊は、戦争による損失や破壊とさほど変わりがない。最後に、市場を開放させる動きと、開放された市場を維持する努力には、軍事介入や侵略をつうじた武力行使を必要とする。

  世界の警察官とルールの執行者という役割を自ら引き受けたアメリカは、世界の唯一の超大国として、いまや自分の利益にもとづいて暴力を行使するには最良の立場にある。しかし、アメリカの最大の利益は、世界にとっての最大の利益ではないことがしばしばあるため、このような役割分担が、不安定化や対立を引き起こすことはほぼ確実である。なぜなら、貿易あるいは「開放性」が、平和的手段によらない平和の希求であるとするなら、そのような希求は新たな戦争へとみちびくだけにすぎないのだから。


  1. National Security Strategy of the United States 2002
  2. As if to underscore this marriage between economic and security considerations, Zoellick also recently announced that henceforth, a country's record on cooperating with the United States on its foreign policy and national security goals will be among the criteria that will govern the US' selection of potential Free Trade Agreement (FTA) partners.
  3. Bacevich, 167
  4. Presidential debate, October 11, 2000, quoted in Bacevich, 2002
  5. Andrew J. Bacevich, American Empire: The Realities and Consequences of US Diplomacy, (Cambridge, Massachusetts: Harvard University Press, 2002); For a brief but nuanced review of US foreign policy since the nineteenth century, see Thomas Reifer, "US-led Neoliberal Globalization: Militarization in Historical Perspective"
  6. David E. Sanger, "On Global Stage, Clinton's Pragmatic Turn," New York Times, July 29, 1996; Jeffrey Garten, "Business and Foreign Policy" Foreign Affairs 76 (May/June 1997); Madeleine K. Albright, "Confirmation Hearing," Senate Foreign Relations Committee, January 8, 1997; cited in Bacevich.
  7. Testimony before the US Senate, Washington DC, October 13, 1994
  8. For more on the WTO's "security exception," see Feffer, John, "Globalization & Militarization," Foreign Policy in Focus, Vol. 7 No. 1, February 2002; Staples, Steven and Miriam Pemberton, "'Security Exception' & Arms Trade," Foreign Policy in Focus Special Report, April 2000; Staples, Steven. "Retooling the Peace Movement in an Age of Corporate Globalization" Polaris Institute
  9. Providing blanket protection for military spending, this provision is also part of the North American Free Trade Agreement and other international trade pacts. The WTO's sister institutions, the World Bank and the International Monetary Fund, also adopt this principle by making defense budgets off-limits to drastic belt-tightening measures. Countries must slash their spending on social services but they may not reduce their military expenditures. The Poverty Reduction Strategy Paper for Pakistan after September 11, for example, allows the government to channel funds for social expenditures towards defense spending.
  10. The possibility that governments will be able to create jobs, foster industries or develop the capacity for hi-tech manufacturing primarily or only through the military industry is not an unfounded fear. It is actually happening. In 1999 for example, the WTO ruled against Canada's grant of subsidies to its aerospace and defence industry which was then building and exporting both passenger jets and warplanes. Canada decided to retain the subsidy with the money being diverted instead to the manufacture of military aircraft.
    In the same year, European weapons corporations were selling helicopters, aircrafts, ships, and submarines to South Africa. To make the deal irresistible, these companies offered to locate the production of these products to the buying country. Eager for the jobs, the South African government took the deal. These kinds of agreements would have been illegal under the WTO if the products were non-military in nature. But since these were covered by the exception, the European companies got to sell its warplanes and the South Africans got jobs manufacturing the very implements of war.
  11. See Walden Bello, "Why Reform of the World Trade Organization is the Wrong Agenda," Focus Dossiers, Focus on the Global South; Fatoumata Jawara and Aileen Kwa, Behind the Scenes at the WTO: the Real World of International Trade Negotiations, (London: Zed Books, 2003)
  12. For a very readable and very recent discussion of the adverse effects of "openness," see William Finnegan, "The Economics of Empire: Notes on the Washington Consensus," Harpers' Magazine, May 2003
  13. "On the Incidence of Civil Wars in Africa," Washington, D.C.: World Bank, 2000
  14. Cited in Susan George, "The Corporate Utopian Dream" in The WTO and the Global War System forum proceedings, November 28, 1999; see also Klare, Michael T., Resource Wars (New York, 2001: Henry Hold and Company, LLC)
  15. See for example Herbert Docena, "Repressive elites, the United States, neoliberalism and Islamic Fundamentalism: An Anti-Orientalist Perspective," unpublished manuscript; Olivier Roy, The Failure of Political Islam, (London: I.B. Tauris, 1994); Nazih Ayubi, Political Islam: Religion and Politics in the Arab World, (New York and London: Routledge, 1991)
  16. For a concise summary of the history of US military intervention abroad, see William Blum, Rogue State: A Guide to the World's Only Superpower (London: Zed Books, 2002)
  17. Strategically, control over Iraq's oil would allow the US to manage its geopolitical relations with its allies and rivals. Militarily, colonizing Iraq would allow it to project power in the Middle East.
  18. Emad Mekay, "US Maps Out Ambitious Middle East Deal" Inter-Press Service, June 23, 2003
  19. Naomi Klein, "Privatization in Disguise," The Nation, April 28, 2003


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