原水爆禁止2002年世界大会

国際会議

カザフスタン

国際反核運動「ネバダ・セメイ」副会長

マイダン・アビシェフ

カザフスタンの核実験被害者の社会的復興の問題について

 カザフスタンにあるセミパラチンスクやその他の核実験場で40年間にわたっておこなわれてきた核実験は、住民の健康や環境にいやしがたい被害を与え、全体の疾病率と死亡率が上昇しました。

 カザフスタン政府は、セミパラチンスク地域を環境汚染地域と認定する条例を定めました。

 今では、セミパラチンスクの社会問題や環境問題は核実験のせいであるということを科学的に証明するデータがたくさんあります。

 国際反核運動「ネバダ・セメイ」の活動のおかげでようやく、カザフスタンの政府と国民は実験場に隣接する地域の住民の健康状態の悪化が何に起因するのか知ることができるようになりました。今ではセミパラチンスク核実験場での実験が地域住民と動植物に大きな物理的、精神的被害を与えたということに疑いをもつ人はいません。

 セミパラチンスク州全体と隣接する汚染地域について特にいえることですが、年々出生率の低下と死亡率の上昇がみられます。被曝住民の悪性新生物の罹患率はカザフスタン全体の平均と比較して40%増加しました。州内では他の地域と比較するとガンや精神病などの罹患率が非常に高いのですが、このような病気の多発には放射線と放射線恐怖症が一定の影響を与えています。被害について今までお話しする機会がたくさんありましたが、被曝地域住民の身体と心の治療はこれからです。

 国際反核運動「ネバダ・セメイ」は、セミパラチンスク核実験場を閉鎖する上で大きな貢献をし、その使命を果たしたといえましょう。ですがぼろぼろされた草原は、住むにはたいへん危険なリスクをともなう場所となってしまい、汚染除去と土壌の再肥沃化が必要です。核実験によって被害を受けたセミパラチンスクの生態学的バランスと住民の健康を回復させることは、様々な社会問題の解決とあわせて緊急の課題ですが、国の経済的な理由でたいへんな困難を伴うものとなっています。

 1997年の国連総会でセミパラチンスク地域の状態が議題にのぼり、総会は169号決議を採択しました。この決議は国際社会に対して、カザフスタン共和国と核実験で被害を受けた住民に可能な限りの援助をするよう呼びかけました。

 決議採択と関連して国連から派遣された専門家チームがカザフスタンを訪れ、カザフスタンの専門家と協同で1998年の6,7月の2ヶ月にわたり被害地域の状況を調査分析しました。調査レポートは、放射線の被害を受けた人は160万人以上になると指摘しています。

 長年の核兵器の大気中、地上、地下実験の影響で、数世代にわたり腫瘍や血液の病気の増加がみられるようになりました。そしてこれらの原水爆の実験被害はまだまだこれから次の世紀になっても出てくるのです。

 核実験によって受けた被害の復興のためには、被曝をし、自然条件が悪い地域に住む人々の治療、リハビリ、社会保障などを統合したプログラムを実行する必要があります。

 このプログラムには、医療、経済、社会、住民のメンタル面の復興計画が含まれていなければなりません。

 高レベルの放射線で汚染されている地域で生活しなければならないという困難な問題を解決するためには、世界中の科学者が、電離放射線被曝のリスクとダメージについて過去約30年間にわたり蓄積してきた研究成果を活用することが有効となるでしょう。特に、広島と長崎の被曝についての研究の成果を最大限活用することが必要です。カザフスタンを、自然環境についての研究を専門にしている世界中の科学者や専門家に対し広く開放することが重要です。

 カザフスタンでは「セミパラチンスク核実験場被害者社会保障法」が1992年に発効しましたが、政府の側からは発動のために必要な措置、特に医療面での措置がとられていません。

 法が発動されない原因は経済的困難だけではありません。理由の一つは、被害規模の過小評価と、歴史的な事情にあります。わたしたちの国は必要な治療や物的・資金の基盤がなく、経験もありません。つまりわたしたちの国には、国際社会の援助なしではとても今述べたようなプログラムを実行するだけの力がないのです。

 カザフスタン共和国は、もっとも重要な国際組織である国連がセミパラチンスク地域を支援してくれたことに感謝しています。第52回と53回の国連総会は、セミパラチンスク地域の救済には国際社会の協力が必要であるという決議を採択しました。国際援助には4000万ドルほどが必要になると算定されました。1999年の9月には東京で国際会議がおこなわれ、外国とカザフスタンの専門家が、セミパラチンスク地域復興のために必要な38のプロジェクトの提案をしました。

 こんにち、わたしたち「ネバダ・セメイ」は、そのときに提案があった、カザフスタンの核実験被害の回復、国民の健康回復、民族の遺伝子ファンドを保護するためのプロジェクトを実行に移すことが不可欠であると考えています。そしてカザフスタンの地で核実験を再開するあらゆるこころみを阻止する決意です。