原水爆禁止2001年世界大会
長崎・共同企画 I (8月8日)
各国政府・外国代表によるパネル討論

南アフリカ駐日大使
カラムチャンド・マカドゥージ

なぜ南アフリカは核オプションを放棄したのか


実行委員会の皆さん、ご来賓ならびに代表の皆さん、

  私は原水爆禁止2001年世界大会実行委員会にたいし、「核廃絶の約束の実行を核保有国に求めよう―国際的強力と連帯で希望ある世界を」を主要テーマとする大会の長崎大会にお招きいただいたことに、心からの感謝を表明するものです。また、私の国にたいし、この会議に参加し、なぜ南アフリカが核のオプションを放棄したかを説明する機会を与えていただいたことに感謝します。さらに、この歴史的に重要な都市で、本大会を開催されたみなさんの、温かい歓迎とおもてなしに感謝します。

  1945年8月、広島・長崎で悲惨な出来事が起きてまもなく、アメリカのドワイト・アンゼンハワー大統領は、世界にたいし、暗い未来を暗示する警告を発しました。1953年の国連総会の演説で大統領は「恐ろしい秘密と危険きわまりない原子力の兵器は、私たちだけのものではない」と述べたのです。彼は間違っていませんでした。やがて、世界に「核保有国グループ―核クラブ」が誕生したからです。この核クラブは急速にメンバーが増え、なんと5カ国にまでなり、それらが冷戦時代の核軍拡競争に突入したのです。まもなく、彼らと同じ野望から、核戦力をもつことは権力、影響力、権威をもつことであると考える国々が、この競争に参入してきました。冷戦によって、世界各国は、何よりもまず自国の安全の確保を中心とした、安全保障政策をたてることを余儀なくされたのです。

  これは南アフリカにもあてはまります。わが国もまた、小規模な核抑止戦力を開発していたからです。アパルトヘイト時代の南アフリカは、国家安全保障政策の一環として、核兵器計画にのりだしました。核兵器が、南アフリカに安全保障と、その全面攻撃の政策を守るための確証を与えると考えたからです。

  アパルトヘイト時代の南アフリカの核能力については多くの人々がさまざまな憶測をしていましたが、この全貌が明らかになったのは、1993年3月24日のことでした。当時のF・W・デクラーク大統領は、上下両院合同会議での演説で、南アフリカが小規模の核抑止力をもっていたことを認めました。また、彼は、南アフリカが1991年にNPT条約に加盟する前に、この核戦力を自発的に解体したことも認めました。

  この発表に先立つ1989年11月、核兵器の解体の可能性を調査するために、上級高官による運営委員会が設置されました。この委員会の調査範囲は次のようなものでした。

  核兵器解体は1991年半ばに終了しました。南アフリカは1991年7月10日、核不拡散条約に加盟し、同年9月16日、IAEAとのあいだで包括的保障措置協定を結びました。同年10月30日、南アフリカは、IAEAに、核物質と核施設の初期一覧表を提出しました。

  IAEAの第34回総会は、IAEA事務局長にたいし、南アフリカが提出した「初期報告」の完全性の調査を要請しました。事務局長は、IAEAは初期報告は正確であったとの報告をおこないました。

  南アフリカが核オプションを放棄したのには、さまざまな理由があり、質問をする相手によって、返ってくる答えが違うでしょう。私は、さまざまな説をそれぞれ分析するつもりはありません。いくつかの説を紹介するにとどめておくことにします。

  以上の理由で、80年代の終わりには、核プログラムの実効性が疑われなければならなくなっていました。

  こうした事態の進展をふまえて、南アフリカは、核能力を破棄する最初の国というユニークな立場をとることとなりました。この特殊な立場からして、ネルソン・マンデラ大統領のもとでの新しい南アフリカ政府は、1994年5月の発足から、民主主義、持続可能な発展、社会正義、環境保護にたいする公約をさらに広げ、大量破壊兵器の廃棄をつうじて地球的規模の平和と安全保障を促進する政策も盛り込みました。わが国の政策の第一の目標は、核およびその関連分野における先進技術の開発、保有、取り引きをする上での責任をとれる国として南アフリカを強化、推進するこというものです。そうすることにより、南アフリカは、とりわけアフリカと非同盟運動において、不拡散と軍備管理が国際平和と安全保障にもたらす利益を促進しています。

  みなさん、私の話の主眼は、南アフリカがなぜ核兵器の道を歩むことを決定したのか、ということだけではなく、むしろ南アフリカがその決定をしてすでに実行していたということです。

  今日の世界が直面している大きな課題は、手をこまねいて、他の国あるいは国のグループの措置をほめたたえることではなく、もっと進んで、確実に核兵器の全面廃絶が達成できるようにたえず注意をはらっていくことにあります。冷戦時代は、軍拡競争の時代でしたが、これはすでに過去のものです。私たちはいま、核兵器があれば安全という考えが間違っていたことが明らかになっている時代の、大きな問題に直面しています。地球上で私たちが直面している課題は、核兵器が人類史上にはじめて出現したときよりも、はるかに大きいものです。私たちにとって真の挑戦とは、第2次世界大戦中に使用された核兵器によるその後の荒廃をふまえ、核兵器を拡散させることによってではなく、核軍縮のなかにこそ、安全保障をみいださなければならないという問題です。私たちがまさに救おうとしている生命そのものを破滅させる仕掛けのなかに、安全を見いだそうとするなら、それは正義をもてあそぶものであり、最高の皮肉といわなければなりません。

  南アフリカはこの確固とした確信に導かれて、核兵器の道を選択するのを断念しました。

  高度な核技術をもつ国として、南アフリカは、国際社会とともに、核兵器の拡散を強く懸念しています。

  南アフリカはその後、国際的に、核軍縮の問題で重要な役割を果しており、その努力による成果をほこることができます。

  南アフリカがもっとも大きな成功をおさめたのは、1995年の核不拡散条約再検討・延長会議のさいの努力でした。同条約を無期限に延長するという最終的な決定に重要な貢献をしたのです。いまは亡き当時のアルフレッド・ヌゾー外相による提案は、おそくとも1996年に包括的核実験禁止条約交渉をまとめるという誓約を織り込んだ「原則と目的」を打ち出したものでした。

  わが国は、このような条約の締結に加わり、1996年9月24日、包括的核実験禁止条約(CTBT)に調印しました。

  核軍縮にたいする南アフリカの誓約は、アフリカ大陸全体のものになりました。アフリカのパートナー諸国とともに、アフリカ非核地帯条約の交渉に参加しました。この条約はアフリカ大陸における核軍拡競争と核爆発装置のもちこみを阻止するものです。不拡散、軍縮、憲章、環境保護の役割に加え、この条約は核エネルギーを経済社会の発展に役立つ核技術の利用におけるアフリカ諸国の協力を促進するものです。条約は、アフリカの安全保障への全体的な取り組みへの重要な貢献であります。

  ペリンダバ条約は、たしかに生まれるまで31年もかかりましたが、アフリカ地域の大きな成功例です。この条約は、いまなお紛争の悲劇的、破壊的影響を背負って苦しんでいるアフリカからの朗報でもあります。この条約は、1996年4月11日にカイロで、45以上の国によって調印されました。

  ほんとうの意味で、私たちの貢献は、より平和と安全保障が強化された世界にむかってたたかうわが国民の願いと意思を反映しています。

  南アフリカは、核保有国たいしても核能力をもっている国にたいしても、建設的にまた確固として核軍縮を押し進めるよう働きかけていくための道を歩みつづけるものです。

  化学兵器禁止条約(CWC)は、大量破壊兵器のひとつの分野全体を禁止するもので、全世界的に適用される国際的規制を確立するものです。この条約は、化学兵器の製造、それへの転用を可能にする化学戦争につかわれる材料を含む化学物質の製造、保有、消費を規制するものです。大量破壊兵器のひとつの分野全体を禁止したこの条約を模範とすることは、まったく可能なことです。

  国際社会の核軍縮論議に前進がみられないことと、行き詰まり状態、とりわけ、1995年の核不拡散条約再検討・延長会議以降の進展が停止してしまっていることを受けて、南アフリカ、ブラジル、エジプト、アイルランド、メキシコ、ニュージーランド、スロベニア、スウェーデンの外相は、1998年6月9日、核兵器のない世界をめざすあたらしい取り組みのための共同宣言を発表し、「新アジェンダ連合」(NAC)を発足させました。

  このイニシアチブは、核軍縮、核兵器を最終的な廃絶への決意をさらに強め、核保有国と核保有疑惑国が抵抗できないようにする実際的な取り組みを提起し、軍縮論議に弾みをつけることをめざしたものです。

  1998年の第53回国連総会で、「新アジェンダ連合」は「非核の世界にむけた、新しい課題の必要」とする提案を出しましたが、これは記録的な賛成票を得て採択されました。2000年4月、5月におこなわれた第6回NPT再検討会議で、「新アジェンダ連合」はこの新しい課題提起をおこないましたが、それは、会議の結果に大きな役割を果たしました。

  「新アジェンダ連合」はまだ発足して3年あまりですが、軍縮の努力をすすめるうえで中心的な役割をはたしたことは、まちがいないでしょう。

  自国の核能力を解体するにあたっての南アフリカの立場は原則的なものですから、核不拡散条約を支持し続け、核保有国の数を増やすあらゆる策動にも反対します。南アフリカは、核兵器が安全保障を推進するという考えを容認することはできません。核保有国の核兵器を廃棄させ、核兵器によって安全保障がまもられるということが間違いであることを明らかにする方向にむかって、努力していきます。南アフリカは、核兵器をもとうとする国にたいして、それを思い止まらせるための努力をつづけていきます。

  そうした道を歩んできて、私たちは、これが今日私たちすべてにとって大きな挑戦であることを知っています。

  ご静聴ありがとうございました。


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