2003年3・1ビキニデー国際交流集会 (2003年2月28日)      <仮訳>

ジョゼフ・ガーソン
アメリカフレンズ奉仕委員会ニューイングランド地域事務所責任者

 3・1ビキニデーの一連の記念行事に私をお招きいただいた日本原水協に感謝します。私を含めアメリカ人が、マーシャル諸島の住民とその家族、第5福竜丸の乗組員、そして日本の平和運動の代表者のみなさんから、このようにじかに学べるような機会はほとんどありません。ここで簡単ではありますが、良識あるアメリカ人を代表して、アメリカ国民の名において行われた行為によってみなさんが受けねばならなかった被害にたいし、深い思いを込めて、私個人の悲しみと謝罪を表明させていただきます。

 昨年、韓国で米兵によって2人の女学生が殺されました。しかも、あのような恐ろしい犯罪を行った米兵は罪に問われることもありませんでした。あの殺人はたんなる異常な事件ではありません。日本国民と同じように、半世紀以上も続いているアメリカによる軍事的植民地化に苦しめられてきた韓国人民にたいする野蛮で許しがたい「虐待と強奪」の一環なのです。現在、世界の人々の力は差し迫ったアメリカによるイラク侵攻の惨事を阻止することに向けられていますが、アメリカの私たちの多くは、その一方でアメリカ政府が朝鮮半島にたいし軍事的な動きを強め、北朝鮮にたいする核戦争の可能性を含め、戦争準備をすすめていることにも大きな怒りを抱いています。

 2月15日世界中で繰り広げられた反戦デモは、世界の人民が、アメリカの企てるイラク攻撃の深い意味と、その戦争のもたらす様々な危険や破壊の後に続いて来るものを理解していることを示したものでした。数週間前にリークされたある国連の計画書では、アメリカのイラク攻撃の民間人被害者は50万人にのぼり、またアメリカ主導の経済制裁によってすでに生命や健康を脅かされている300万人は、攻撃開始から数日で餓死するかもしれず、さらに90万人のイラク人が脆弱な難民になると予想しています。しかも、これらの数字はアメリカが核兵器でイラクを攻撃するという脅しを実行しなかったことを仮定した数字です。イラク攻撃に続いて起こるかもしれないアラブ諸国や、イスラム諸国の混乱やクーデターや革命の被害はこれには含まれていません。また、オサマ・ビン・ラディンをはじめ、政治的原理主義者が包囲されたイスラム教の守り手として実行するかもしれない過激なテロ行為の被害も含まれていません。国連の数字でも、ブッシュ政権がやろうとしているように、58年間続いた国連中心の秩序を一方的に破壊することで、人類がジャングルのような弱肉強食の時代に逆戻りした場合の悲惨な人的被害は予想すらできません。

 ブッシュ政権が発足して以降、200万人のアメリカ人が職を失い、それより多くの人々が増大する経済不安を抱え、教育機会の減少や基本的な社会保障の大幅な切り捨てに苦しめられています。最低でも1000億ドルにのぼる戦費、そして2500億ドルかかるとされる、いつ終るか分からないイラクとイラクの油田の占領経費によって、多くのアメリカ国民をはじめ各国の国民もまた、迫りくるイラク戦争の経済的な被害者になろうとしているのです。

 私たちアメリカ人の多くは、これらの惨事を阻止することに殆ど力を使い尽くしてしまいました。あるアメリカ議会議員は、このような状態を評して、今週、次のように言っています。イラクは他の外交や軍事政策の議論からすっかり“酸素を吸い取って”しまった。そのようなわけで、私が今日みなさんにお話しすることは、主にブッシュ大統領が計画している致命的な攻撃に関連したものになります。私は、今回の集会の発言原稿を書きながら、ロンゲラップや第五福竜丸の被曝者から聞いた、胸の痛む証言を思い出していました。他の被曝者と同様に、みなさんの苦しみや失ったものは計り知れません。また私は、イラク人の友人、その家族、同胞たちが、みなさんとおなじように受けるであろう痛みや苦しみ、そして失うものの計り知れない大きさを思いました。

 しかし、アメリカには別の新しい声があります。かつてないほど幅広くダイナミックな平和運動があげている声です。その声が私の中で響き、私の耳にこびりついて離れないのです。それは、労働者階級の母親たちの、「私の息子は船でペルシャ湾に派遣された。彼が生きて帰ってくるのなら何でもする。息子が生きて帰ってくるためには何をすればいいの」という必死の叫びです。息子が海兵隊員で、最近中東に派遣された父親は学生たちに向かって、こう言いました。「私は平和主義者じゃない。戦争によっては支持することもある。自分の生涯で起こりえる2番目に悪い出来事は、息子が正義の戦争で殺されることだ。最悪の出来事は、ブッシュがイラクにたいして準備している正しくも、必要でもない戦争で息子が殺されることだ」。そしてこの父親は「その正しくない戦争をやめさせるためなら、できることは何でもする」と言いました。

 ブッシュ政権がその戦争をする権利の是非を問う裁判闘争で、この父親を前面に出して闘って、私がどれほど痛快な気持ちだったか言いようもありません。この父親チャーリーとその妻は、アメリカでも最も人気があるテレビ番組に出演を依頼されて、話をすることになっています。

 今日、私は4つのことをお話しようと思います。初めは、アメリカの戦略的政策における、イラク戦争をはじめとするブッシュ政権の地球規模軍事十字軍の様々な側面の位置付け、2番目は、アメリカ国内の世論と私たちの大きくダイナミックな反戦運動の簡単な紹介、3番目はブッシュ政権の新型核兵器の製造と実験の計画の紹介、そして最後は私からみなさんへのいくつかの提案です。

 昨年の8月に、私は取材のためアメリカに数週間滞在したという日本人の記者数名からインタビューをうけました。彼らはアメリカに着くまで、アメリカがイラクと戦争をするなど想像すらしていませんでした。しかし、イラクやブッシュの脅しの危険性について無批判なマスコミ報道を延々と聞かされ、またサダム・フセインとヒットラーを比べるヒステリックな右翼的なトークショーばかりを放送するテレビを見て、彼らはアメリカがイラクに壊滅的な先制攻撃をしかけるという現実性と、アメリカ国民の沈黙と混乱ぶりに、恐ろしくなったそうです。

 9月11日以降、単独で、あるいは国連の支持で、そしてもしかしたら核兵器を使って、イラクに戦争をしかけようとするブッシュ政権の主張する戦争遂行の理由はめまぐるしく変わり、それについていくのが大変でした。サダム・フセインは独裁者だから、イラクの政権交代が緊急に必要だ。イラクは国連決議の履行を拒否している。イラクはアメリカを脅かしている。サダム・フセインは核をはじめ大量殺戮兵器をもっている。他の国を侵略し、自国民に大量殺戮兵器を使用した。サダム・フセイン政権は、オサマ・ビン・ラディンと結び付いている。アメリカは中東に「民主主義」を輸出しなければならない、などが言われてきました。

 アメリカ国民の多くは、平和運動がおこなった批判、軍部指導者の関心事、軍部よりは洗練された多国主義の帝国主義者たちの警告などの詳しい内容までは知らないかもしれません。しかし、何か本質的なことが間違っているということを理解する人は増えています。実際、最近の調査では、アメリカ国民の3分の2が、国連査察官に査察に必要なだけの時間を与えることを要求し、国連の認めないイラク攻撃には反対しています。

 平和運動側もフセインが独裁者であることは認めています。しかし、私たちはアメリカが長期にわたってフセインを支援していたばかりか、サウジアラビアの君主制、エジプトのムバラク、イラン国王、ノリエガ、ピノチェット、マルコス、韓国の軍事独裁者たち、蒋介石なども支援したことを忘れていません。アメリカは、フセインが「アメリカ側の」独裁者であるかぎり支持してきました。また、無数の国連決議に違反して、占領地を拡大し、植民化してきたイスラエルに、外交的、経済的、軍事的援助を提供してきたことも知っています。さらに私たちは、アメリカが、核兵器廃絶を求める国連決議の受入れを繰り返し拒否し続けていることも忘れることはできません。国連査察官がイラクの核兵器計画を破壊したこと、現在問題になっているイラクの化学・生物学兵器は、1990年代に査察官が破壊した兵器のわずか10%に相当するにすぎないことや、イラクが現在保有する化学・生物学兵器の多くはアメリカが提供したものであり、イラン攻撃に使用するためにイラクに標的にかんする情報を提供したことも無視することはできません。また、CIAがイラクはアメリカにとって差し迫った脅威ではないと何度も言っていること、ラムズフェルドが、自分に主張に都合の良いことを言わせるためだけに新たな諜報局を設置したこと、アメリカ政府がアメリカの衛星を利用して得た標的情報をイラクに提供し、化学・生物学兵器によってイラン部隊に大打撃を与えられるようにしたこと、現在問題になっている化学生物兵器の量は、90年代に国連の査察団が廃棄した合計の10分の1であることを、私たちは忘れていません。1980年、アメリカの承認をえたうえで、イラクがイランに侵攻したこと、1990年に、バクダッドのアメリカ大使館のナンバー・ツー外交官が、アメリカ政府はクウェートとの国境は神聖で侵すことのできないものとは見なしていないとイラクの指導者に伝えたことなどは、歴史の記録によって証明されています。私たちはイラクが一部のパレスチナのテロリストとその家族を支援していることを認めますが、イラク政府とアルカイダとの結託を示すようなまともな証拠はないという点ではCIAと同じ見解です。

 それでは、なぜ私たちは、アメリカの単独イラク攻撃、あるいはアメリカが脅迫や買収で国連安保理のメンバーの多数派工作に成功した場合の「多国籍」攻撃の瀬戸際に立たされているのでしょうか。ディック・チェイニー副大統領の2001年春の発言はこの理由をうまく説明しています。つまりチェイニーが言うように、アメリカは「世界において、政治的、経済的、軍事的に支配的な大国であり続けるための、21世紀の仕組み」を押し付けようとしているのです。ブッシュ政権は、コンドリーサ・ライスが言ったように、冷戦時代の初めにしたと同じように、世界秩序を再構築することをねらっているのです。

 アメリカの歴代政権で最も軍国主義的な現ブッシュ政権は、1930年代の日本の軍国主義者たちの政権に匹敵するものであり、アメリカの覇権再強化政策は4つの軸を中心に展開されています。アメリカのエリートたちの多くは、ニューヨーク・タイムズ紙の日曜版に見られるように、このアメリカの覇権をあからさまに「帝国」と表現するようになっています。

 第一に、ブッシュ政権はノーム・チョムスキーがアメリカの外交・軍事政策の「政治原則ナンバーワン」と表現したものを信仰しています。それは、グローバル資本主義の「頚動脈・急所」である中東の石油への独自のアクセス権あるいは支配権を、敵国にも同盟国にも与えないことを確実にするためにアメリカはあらゆる手段を行使するというものです。ブッシュ政権はイラクを征服し、それによって世界第二の埋蔵量をもつイラクの油田を独り占めするためだけでなく、中東全体にたいするアメリカの支配体制を再構築し、再強化するために今回の戦争を利用しようとしているのです。(アメリカのアフガン侵攻が、中央アジアの埋蔵石油にたいする強固な支配を確立すると同時に、「戦略的な競争相手」である中国を包囲することと密接に結び付いていたことを思い出してください)。

 第二は、広島、長崎の原爆攻撃およびバクダッドを「工業化以前の状態」にまで引き戻した、1991年の「いけいけ、どんどん的新世界秩序」のためのイラクにたいする大量破壊の伝統のうえに構築する新たな「衝撃と畏怖」の軍事ドクトリンです。アメリカの計画している3,000基の巡航ミサイルの集中射撃と、この数週間の間にも使用する予定だと言われているまだ名前も付けられていない「新型兵器」によって、ブッシュ政権はイラク国民と世界に「衝撃と畏怖」を与えようとしているのです。国防副長官ウォルフォビッツによれば、その目的は、他国がアメリカを「恐れる」あまり、アメリカに挑戦するなど考えすらしないようにするためです。この目的のために、アメリカはまたしてもイラクにたいして核戦争をしかけると威しています。しかも今回は、共和党内にも政権内にも、核戦争にたいするタブーを打ち壊そうとしたがっている強大な勢力が存在し、核態勢見直しと、それに付随した、核攻撃の潜在的な標的としてイラクを名指しし、非核保有国にも先制核攻撃をするという威嚇のドクトリンがあります。

 第三に、ブッシュ−チェイニー−ラムズフェルド政権は、マハーン提督、セオドア・ルーズベルト、ヘンリー・カボットロッジなどのような、イギリスに代わって世界で支配的になった軍隊を構想し、作り出した19世紀終わりの帝国主義者の先人たちを尊敬しています。ブッシュ政権は新型核兵器によって、また宇宙の軍事化を独占することで、恐怖による世界支配体制の強化を目指しているのです。このことは、核態勢見直し、アメリカの一方的なABM条約破棄、国防省の「戦略司令部」と「宇宙司令部」の統合、昨年ロシアと結んだおそまつな核兵器合意、アメリカによる生物兵器条約の破壊、いわゆるミサイル防衛配備の加速化、そしてブッシュのおこなった「バンカー破壊」核兵器の開発・配備および核兵器実験再開に必要な時間の短縮の提案などにみることができます。これらの計画や、その他の兵器システムに必要な財源を確保するために、アメリカの軍事費はすでに1000億ドル近くも増額され、世界の軍事費上位25カ国の軍事費を合わせた額に等しくなっています。

 アメリカ帝国の最強化の4番目の柱は、「対テロ戦争」という名による民主的な権利への攻撃です。9月11日の攻撃は、ブッシュ政権に恐怖による支配への道を開きました。すなわち、存在しないテロ攻撃に不断に警戒を発し、国家安全の警報をたえず変更し、学問的、知的自由を攻撃しています。「安全保障」の名でもって、2月15日のニューヨーク市のデモが規制されました。デモ参加者の数を制限しようとして、警察は、20ブロックを埋め尽くす歴史的な集会に対し、刑務所に拘束されるという不名誉と危険があるといって脅かし服従させ、集会の組織者に憲法で保証された集会、表現、要請の自由について譲歩することを強要しました。警察のバリケードは、集会参加者が会場に行くのを阻止するために、マンハッタン中に張り巡らされました。そして、騎馬警察や催涙ガスによる攻撃は、全く無縁の出来事ではありませんでした。アメリカにはいわゆる愛国者法という法律があり、警察の監視の強化、刑務所を隔離された独房化することや、秘密裁判などを認めています。「全情報盗聴」プロジェクト、すなわち、すべてのコンピューター通信をモニターすることが、イランコントラゲート事件の犯人のポインデクスター提督によってすすめられています。ひどいことに、第二の「愛国者法」の内容は、指数関数的に、監視と秘密の逮捕を強化し、人々から市民権を剥奪することを認めています。イラク侵攻の最初の週に議会に提出される予定です。絶対的な「愛国主義」が一時的にせよ、再び生き返る時です。

 ブッシュ政権の朝鮮への軍国主義的なアプローチについて、少し申しあげたいと思います。2001年2月、ブッシュ大統領が太陽政策をくつがえし、金大中とコリン・パウエルの面目をつぶしたことに始まり、北朝鮮との今は亡きクリントン時代の交渉を脱線させるなど、朝鮮に対するブッシュ政権の政策は、悲惨です。そうです。北朝鮮政府は、機能していない専制政治であり、核兵器計画かもしれないものを持っています。しかし、北朝鮮がアジア太平洋経済への参入やアメリカとの非侵略条約のための交渉のカードがあるにしても、わずかしか駆け引きをしていないように、北朝鮮の対立的外交への論理があるのです。ブッシュ政権の最初の数年で、外交のサイドラインに追いやられた北朝鮮は、ワシントンの注目を再び得ようと必死です。戦争ではなく、対話と交渉が北朝鮮を核保有国にせず、北東アジアに安全と繁栄の未来を保証する道であることは、明らかです。

 残念ながら、ワシントンには、金大統領や盧大統領、韓国の大多数の人々が展望した軟着陸を容易にすることよりも、北朝鮮の崩壊を巧みに工作することを望む強い勢力があります。軍事国家狂信的愛国主義に酔いしれ、これらアメリカの高官たちは、現在の危機を対話と外交で解決するよりも、朝鮮半島と北東アジアに破滅的被害をもたらす北朝鮮との戦争をやりたがっています。アメリカでは、北朝鮮とイランはブッシュのリストによると、イラクに継ぐ「悪の行為者」であると、くり返し言われています。けれども、状況は、ほとんどのアメリカ国民が理解しているよりもずっと危険であり、イラク戦争に反対する主流の多くの人々が北朝鮮とその核兵器計画と称せられるものを、アメリカにとってイラクよりもずっと危険なものととらえており、状況はより危険と言えます。たとえ、北朝鮮のミサイルがアラスカに届かないとしてもです。彼らはイラク戦争に反対しながら、朝鮮での壊滅的戦争のための知的、政治的基礎をつくっているのです。

 北東アジアでアメリカの軍国主義が展開するような政治的状況がほとんどなくても、AFSCと他の組織は、反戦運動と議会の議員を教育するために全力を尽くしています。私たちは人々に、枠組み協定の違反は双方によるものであることを思い出すべきであること、協定は重要な目的を達成したこと、「悪の枢軸」として北朝鮮を攻撃すること、核態勢見直しで北朝鮮を標的にすることなど好戦的なレトリックは、北朝鮮の恐怖をつのらせるだけであると主張しています。この危機を解決する「軍事的選択肢」はない。北朝鮮が孤立からより確実に抜け出ることができるようにアメリカが意味ある譲歩をするべきであることが、私たちの明確な立場です。

 朝鮮半島の非核化のために努力しなければならない、アメリカは、韓国と北朝鮮の安全保障にかかわるまさにリアルな懸念を尊重しなければならない。そして、アメリカは北朝鮮の主権を尊重するべきであると思います。北朝鮮との交渉には、安全保確証、北朝鮮の外交的認知にむけての進展と意義ある経済援助を含めることを要求します。もちろん、私たちは、朝鮮からの米軍の削減、撤退とアメリカの核軍縮のためにも活動をしています。

 昨年の8月、私は、イラクへの一方的な戦争をめぐって述べたアメリカの支配階級の対立が、ベトナム戦争以来、最大で最も力強い反戦の運動を生み出すということがわからないとき、9・11以降のアメリカの平和運動の起こりと活動について述べました。昨年の11月になって初めて、平和と正義連合が組織され、それが、12月10日の行動、世界のいたる所で、また、2週間後にニューヨークで、12月10日の行動や2月15日の抗議行動を組織したのです。当初から、私たちの運動は4つの原則を持っています。それは、1)9・11攻撃を極悪非道の犯罪として非難し、その犯人は法で裁かれるべきであること、2)戦争は答えではなく、テロの防止は、法的、外交的手段によるべきであることは明白であること、3)憲法で保証された市民的自由と危険にさらされている(アメリカ在住のアラブ、南アジア系アメリカ人とイスラム教徒らの)コミュニティを守ることの重要性を強調する、4)9・11攻撃の元凶に取り組む必要性を強調することです。

 昨年4月、ワシントンの行動に10万人を動員したとき、そうであったように、私たちの運動はひきつづき、4つの主要な勢力が中心になっています。第一は、伝統的な民主、平和運動、現在、それに、学生、増大している組織労働セクター、有色人種発展のための全国協会のような古くからの組織、それに、平和な明日をめざす9月11日テロ犠牲者家族の会のような新しい組織が参加しています。2週間前ニューヨークとサンフランシスコでデモを組織したのはこの勢力でした。二つ目の勢力は、ANSWER「連合」で、ワーカーズ・ワールドという政党が動かしている連合体です。この政党は小規模で規律はありますが民主的ではなく、他の組織と共同するのに困難のある団体です。三つ目は、アメリカ在住のアラブ系やイスラム教徒の人々です。四つめは、地方自治体議員や連邦議会議員たちで、今その数を増やしつつあります。この中には民主党の大統領候補3人も含まれています。また、ブッシュの戦争反対の立場に共感する新聞編集者やジャーナリストが増えるにつれて、私たちのメディアとの接触も拡大してきました。

 アメリカそして世界の平和運動の結合した力により、ブッシュ大統領は議会と国連安保理にイラクへの一方的戦争の威嚇を行うための承認を求めることを余儀なくされました。私たちはまだ完全に優勢に立っているわけではありませんが、これまでに、いくつかの譲歩をかちとってきました。ブッシュが国連の討議にたち戻らねばならなくなったこと、国連査察官がイラクに戻ったこと、そしてイラクが更なる「重大な違反」を犯しているとされたときでも安保理は戦争ではなく「重大な結果」がもたらされる、という承認をするにとどまることなどです。戦争に反対投票をする議員が下院でただ一人しかいなかったという一年前の情況とは異なり、今私たちの運動は、上下院議員の4分の1が戦争承認法案に反対するところまで来ています。成功とはいえませんが、これは前進です。現在、新たな大衆的デモや学生・労働者のストライキが計画されている一方で、議会では戦争に反対する新たな法案を成立させようという動きがあり、また、兵士の両親とともに裁判に訴える議員も出ています。

 アメリカの平和運動の中には他にも重要な側面が生まれています。全米教会協議会が今強力な勢力として台頭しており、他のプロテスタント教会やカトリック教会の指導者たちを戦争反対の流れに引き付けています。ロサンゼルス、フィラデルフィア、シカゴなど全米で100を超える地方議会がこれまでに戦争反対決議を採択しました。アメリカ政府の侵略戦争に長い間沈黙し、また手を貸してきた組織労働組合運動も、これまでにないほど反戦の声をあげ、行動に立ち上がっています。ニューヨークでのワン・フィーダー・マーチ(one feeder march)には1万人の労組活動家たちが参加し、彼らの組合は、2月15日のデモを組織した平和と正義の連合に無料で事務局スペースを提供してくれました。もう一つ新たな勢力は「ムーブオン」という、コンピュータ技術にたけた若者たちの小さなグループで、彼らはインターネット署名を組織し、メジャーなメディア上の反戦意見広告掲載のために資金を集め、またインターネットを通じて数百の団体の代表団が連邦議会議員と面会できるよう組織を行いました。

 私たちは今破滅的なイラク戦争阻止に全てのエネルギーを集中しているため、核兵器廃絶運動を組織する余地は限られています。しかしブッシュ政権が核兵器を使ってイラクを攻撃する可能性に私たちが警鐘を鳴らしたため、マスメディアの一部がこの懸念を取り上げ、ラムズフェルド国防長官は守勢に立たされています。核兵器と戦争に関する法案の成立の可否に、ニューイングランド地方選出の連邦議会議員たちは決定的な役割を果たすことになります。このため私たちはこの春から夏にかけて、ブッシュ政権がたくらむ新たな核兵器研究開発と核実験再開に要する時間を短縮するための予算案を阻止するために、この地域全体で討論を広げ、地元選出議員へ働きかけるキャンペーンを行います。今月はニューハンプシャー州、アイオワ州、そしておそらくサウスカロライナ州で集中した取り組みを開始します。この3州は、2004年大統領選挙キャンペーンの予備選挙を一年後に控えている州なのです。私たちは民主党の大統領候補指名をねらう候補者たちにたいして核兵器廃絶問題で影響を与え、そうすることで核兵器と戦争に関わる国政の場での議論にも影響を及ぼすことを目標としています。

 しめくくりに3つの提案をしたいと思います。ブッシュ政権が国連安保理メンバー諸国に脅しをかけ、あるいは賄賂を使ってイラク侵略を正当化しようとし、そしてまた一方的攻撃の脅迫を続けている今、多くの人々は、戦争を止めるにはこれ以上何をすればよいのだろう、と考えています。ここ日本で、みなさんは出来る限り非暴力的なやりかたで、日本政府に対し、この不正義で破滅的な戦争にいかなる軍事協力も拒否せよ、と平和憲法を守るようにはたらきかけてください。アメリカ製品のボイコットに加えて、アメリカ政府と支配層にもっと迅速で強力なシグナルを送ることもできます。それは、個人投資家の投資や年金などの公的資金への投資をアメリカから引き上げて、日本や他の国に再投資することです。アメリカドルで保有している資金は日本円やユーロに切り替えるのです。アメリカは現在史上最高の年間2千億ドルという財政赤字を抱えています。そのアメリカ政府に対し、権力とは軍事的な面だけでなく経済的な面もあり、それを使って何十万人という人々の生命を救い、核戦争を防止し、国連による秩序を守ることが出来るのだ、ということを思い知らせましょう。

 そして最後に、ブッシュ政権の新たな核兵器イニシアチブを打ち破り、アメリカの政治的討論を核兵器廃絶へと向けさせるための私たちのキャンペーンを拡大するために、アイオワ州、ニューハンプシャー州、そしてニューイングランド地方の諸州への被爆者遊説団派遣の可能性を追求することを提案します。

 結びに、勇気ある被爆者、渡部千恵子さんの記憶と精神をよび起こしたいと思います。何年も前、渡部さんは、自らの癒えることのない苦しみの上にたって、ベトナムに対するアメリカの空爆と核脅迫を激しく非難しました。私たちはイラク、北朝鮮そしてイランの人々が自由を享受できるようになることをもちろん望んでいますが、同じことをアメリカと日本の国民にとっても望んでいます。イラクも北朝鮮もイランも非核になるべきであり、もちろん世界のほかの国々全部も同じく非核になるべきですが、私たちは戦争がそのための解答ではないことを知っています。緊迫したこの時期、私たちのすべてのエネルギーと努力を傾けて、今直面する戦争、そして将来ともに戦争を決して起こさぬようにがんばりましょう。イラク、北朝鮮、イラン、フィリピン、日本、そしてアメリカの人々が再び安全を取り戻し、私たちの子どもたちや将来の世代の命が失われることに絶望することが決して起こらないように、力を尽くしましょう。    


(注)ジョゼフ・ガーソンは、アメリカフレンズ奉仕委員会ニューイングランド地域のプログラム責任者でありまた平和・経済安全保障プログラムの責任者でもある。
連絡先: AFSC, 2161 Massachusetts Ave., Cambridge, Ma. 02140, USA. Phone: 617-661-6130.
E-Mail: Jgerson@afsc.org, Web: www.afsc.org/pes.htm.